障害や難病のある子の兄弟姉妹のことを「きょうだい児」と呼びます。きょうだい児は、自分の感情を表現しづらく、一人で悩みをかかえ込んでしまうことがあります。
おとうとがすき
でも いっしょにいると
ボクのこころは グチャグチャになる
こんなふうにおもうボクは
ダメなこ?
『みんなとおなじくできないよ』の主人公は、障害のある弟がいる小学生の男の子です。
『みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし』湯浅正太作、石井聖岳絵、日本図書センター、2021 amazon
「ボク」は、弟が好きなのです。でも「ちょっと ヘン」な弟を見ているとなんだか悲しくなるし、弟を見てみんながコソコソ言っていると、恥ずかしくなる。それに、うちではいつも弟のことばかりで、ひとりぼっちみたいな気持ちになるのです。
ある日、ボクは、友だちに追いかけられた弟が、ジャングルジムに逃げ込んでいたところに出くわします。
とっさにかけ寄ったボクの服を、小っちゃい手でぎゅっとする弟。
おにいちゃん
み んな と お なじ く
で きな いよ
障害があるからといって、弟が、何も感じていなかったわけではないのです。
その夜、ボクは布団の中で悔し涙を流します。そして、「弟のことをもっとわかりたい」と強く思うのでした。
弟の姿に目を凝らし、心に手を当ててみてわかった、弟のこと。ボクの心は、グチャグチャのままだけれど、やっぱり、弟は好き。
青空の下笑顔の2人が手をつなぐ場面で、物語は閉じていきます。
おなじくしなくて いいんだよ
ひとりじゃない、と伝えたい
ボクがいつだって弟を好きであること、弟が意地悪されていれば、自然に弟の元へ走っていけるような健全さに、モヤモヤしてしまうことがあるかもしれません。きょうだい児と言っても、状況や考え方はさまざまですから、あるべき姿を押し付けられているように感じられることもあるでしょう。
けれど、おそらくは自分ときょうだいの関係しか知らない子どものきょうだい児にとって、「複雑な感情をかかえているのが自分だけではない」と知ることには意味があるはずですし、ボクと自分との重なりが、自身を見つめ直したり、きょうだいへの理解につながったりするのではないでしょうか。
子どもも読む絵本だからこそ、前向きさやあたたかさが大切なのだと思います。
あとがきによると、この絵本は、小児科医・湯浅正太さんの実体験を元に「キミはひとりぼっちじゃないよ」という思いから作られたそうです。
たとえば弟の悲しみに触れたボクは、自分を責めてしまいますが、
ボクが もっと おしゃべりしていたら
ボクが もっと あそんであげたら
おとうとは みんなとおんなじように
できていたのかな
きょうだい児の悩みには終わりがなく、進学や就職、結婚など自身の成長や変化により、新たな悩みが出現することもあります。そんなときに、悩みを理解し、きょうだい児が悪いのではないのだと伝え、手を差し伸べる人の存在はとても大きいでしょう。
『みんなとおなじくできないよ』が、きょうだい児の存在や、きょうだい児に支援が必要だという認知につながるよう、子どもから大人まで多くの手にとられることを願っています。
※「きょうだい児」は、「きょうだい」「きょうだい者」と呼ばれることもありますが、ここでは全て「きょうだい児」としました。
にこっとポイント
- 障害を持つ弟のいる小学生の気持ちを描いた絵本です。障害・多様性などさまざまな観点から読むことができます。
- きょうだい児としての自身の体験を元に、小児科医によって書かれました。
(高橋真生)