「暮らす」ということが大事。いそがしく、たのしくね。― 松岡享子
こんなことばが、絵本の中表紙の左側のページにそおっと書かれてあります。
これは2022年1月22日に亡くなった、松岡享子先生のメッセージです。
忙しい毎日、楽しい毎日はどんどん過ぎていきます。しかし、「暮らす」ということを意識したことはあったでしょうか? 少し考えさせられました。
『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのいそがしい毎日』松岡享子原案・文、降矢なな文・絵、福音館書店、2022 amazon
まあるいお豆顔のおばあさんと、そら豆顔のおじいさんは本当に仲良し。長い間助け合い、労わりあって暮らしてきたのだと思います。
ある日、えんどう豆のつるが伸びてきたからと棒を立てにいったおばあさんは、うさぎ小屋の金網が破れているのを見つけました。
「おじいさん、うさぎ小屋の金網をなおして……」というおばあさんのお願いに、おじいさんはすぐに腰を上げて修理をしようとします。
しかし、そのとき、おじいさんの作業着に穴があいていることを見つけたおばあさんは、さっそく継ぎ当てをするのでした。そして、それから……?
実は、このお二人には、困ったことがあります。
それは、やらなくてはいけないことが見つかると、今までやっていたことをそっちのけにして、取りかかってしまうことなのです。
たとえば、うさぎ小屋の金網を直していると思ったら、納屋の屋根を直していました……、といった具合です(えんどう豆の畑に行ったのも、お昼ご飯のときだったのですよ!)。
そういうわけで、朝、やろうとしたことが完了したのは、なんとベッドに入ってからでした。
それでも、やらなくては気がすまない二人は、懐中電灯を持って菜園に向かい、えんどう豆のつるに棒を立てるのでした。やり遂げたのです!
こういった展開がとても面白く楽しいのです。このような歳の重ね方ってすてきだなぁ、と思いました。
作者・松岡享子先生のこと
『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのいそがしい毎日』は、松岡享子先生の最後の作品です。
松岡先生は、たくさんの絵本の翻訳や文献を出版され、また、東京こども図書館を設立されました。子どもたちへのストーリーテリングなど、子どもと読書を中心に、実際に活動もされました。
先生の語りは絶品です。私も学生の頃、先生の授業を受けたのですが、先生との出会いが絵本との出会いにつながったと思っています。
先生の『えほんのせかい こどものせかい』(文春文庫)『子どもと本』(岩波新書)などは、子どもと絵本に関わる方にはぜひ、読んでいただきたいものです。
また、福音館書店のサイトから、松岡先生に関する記事をお読みいただけます。 → 松岡享子さん 物語と本と子どものこと
にこっとポイント
- まめまめしく暮らすおばあさんとおじいさんの、ユーモラスで心温まる絵本です。
- 編集の方によると、先生はこの絵本の出版にあたり、絵を降矢ななさんに指名されたそうです。降矢さんは、特に表紙の絵を何枚も何枚も描かれたそうです。
(寄稿: 絵本専門士<東京都> 鴫原晶子 / 保育者養成校講師)