PICK UP! 空のきれいな季節に……「飛ぶ」絵本

絵本や人形劇でおなじみの「赤ずきん」ですが、世界中に多くのバリエーションがあるのをご存じですか?

絵本・赤ずきん読み比べ

よく知られているのはシャルル・ペローとグリム兄弟のものですが、赤ずきんがオオカミに食べられて終わるもの、食べられても狩人に助けられるものをはじめ、食べられる前にうまく逃げ出すものなど、こんなバージョンもあったのかと驚くようなストーリーもあります。

今回は、絵本の絵とあらすじに注目して、さまざまな「赤ずきん」をご紹介します。

世界中で知られるこのお話が、どんなふうに絵本という形で表現されたのか― その世界の違いを楽しみつつ、お好きな1冊を見つけていただけたらうれしいです。

 読み聞かせをする場合、特に記載のないものは、4・5歳からがおすすめです。

1.『グリム あかずきん』ツヴェルガー

あかずきん(ツヴェルガー)

『グリム あかずきん』リスベート・ツヴェルガー画、池田香代子訳、冨山房、1983 amazon

正統派の赤ずきんといえば、こちら。透明感のある色、繊細で余白を生かした美しい絵は、子どもにも大人にも好まれます。あかずきんは、ショートカットの真面目そうな女の子として描かれますが、オオカミは後ろ足で立って歩き回り、人間のようなしぐさを見せるなどユーモアたっぷり。

赤ずきんが正面を向いて読者と目を合わせる絵本が多い中、この絵本は、あかずきんちゃんが横や後ろを向いている場面が多いのも、特徴的です。

2.『あかずきんちゃん』ポール・ガルドン

あかずきんちゃん(ガルドン)

『あかずきんちゃん』ポール・ガルドンさく、ゆあさゆみえやく、ほるぷ出版、1976  amazon

金色のロングヘアでちょっとアイドルっぽさのあるあかずきんちゃんは、もうお姉さんらしい雰囲気。二足歩行に慣れている感じのオオカミも、コミカルです。いきいきとした動きがあり、明るくてお話とぴったり合った絵で親しまれています。

3.『赤ずきん』フェリクス・ホフマン

赤ずきん(ホフマン)

『赤ずきん』(グリムの昔話)フェリクス・ホフマン画、大塚勇三訳、福音館書店、2012 amazon

オーソドックスな赤ずきんです。おさげで元気な赤ずきんに、四足歩行のオオカミらしいオオカミ。森は、まっすぐで高い木が多く、全体的に暗い雰囲気。オオカミに飲み込まれる直前の赤ずきんが、床にころりと転がってしまう場面はなかなかの迫力ですが、子どもたちはさほど気にしないように思います。

フェリクス・ホフマンが孫娘のために手作りした絵本を再構成したもので、スピード感のある絵も魅力的です。

4. 『赤ずきん』バーナディット・ワッツ

赤ずきん(ワッツ)

『赤ずきん』(大型絵本)バーナディット・ワッツ絵、生野幸吉訳、岩波書店、1978 amazon

色遣いはカラフルで、レトロな雰囲気の絵本です。赤ずきんは、どことなくぼんやりとしたところのあるかわいらしい女の子で、ピンチには「大丈夫かな?」とハラハラしてしまうかも。おばあさんの家のインテリアも、子どもから大人までの女性に、喜ばれます。

5. 『赤ずきん』飯野和好

赤ずきん(飯野和好)

『赤ずきん』矢川澄子再話、飯野和好絵、教育画劇、2001 amazon

赤ずきんの一般的なイメージよりも、力強い物語に仕上がっているのがこちら。赤ずきんは、髪がもじゃもじゃで、のんきさやたくましさを感じさせる女の子です。しっかりと踏みしめた足で、地面からパワーを吸収しているかのよう!

オオカミはかなり大きく描かれていて、赤ずきんを食べてしまう場面は迫力がありますが、不思議と怖くありません。会話文が多いのも特徴的です。

6. 『あかずきん』片山健

あかずきん(片山健)

『あかずきん』(世界みんわ絵本《フランス》)樋口淳文、片山健絵、木下順二・松谷みよ子監修、ほるぷ出版、1992 amazon

明るい色遣いとあかずきんの笑顔が印象的。二足歩行のオオカミは、服は着ていませんが、首飾りをしています。あかずきんもおばあさんも、食べられる瞬間が描かれていてインパクトがあります。

フランスのトゥーレーヌ地方の語りを元にしていて、「カチカチ山」や「三枚のお札」のようなエピソードが出てくるので、驚かれる方も少なくありません。今回紹介している中では1番民話の形に近い絵本です。

7. 『あかずきん』湯村タラ

あかずきん(湯村タラ)

『あかずきん』グリム原作、湯村タラ絵、武井直紀文、ミキハウス、1991 amazon

アメコミテイストで、ポップな赤ずきんです。おしゃれでサッパリしたあかずきんと、二足歩行で服を着ている「オーカミさん」。一見パロディのようですが、原作に近いお話がていねいに描かれています。助けられたあかずきんとオーカミさんは後日森で再会、おばあちゃんと協力してオーカミさんをやっつけます。中高生、大人に特に人気の絵本。

8. 『赤ずきん』大竹茂夫

赤ずきん(大竹茂夫)

『赤ずきん』(絵本グリムの森)大竹茂夫絵、天沼春樹訳、パロル舎、2005 amazon

幻想的な雰囲気の赤ずきん。かぶりもののようなオオカミ、謎めく植物、小さな生きものたち― 退廃的でさえあるのに、いろいろな命の気配の感じられる森は、どの絵本よりも不思議に満ちています。赤ずきんちゃんは、おかっぱの、物静かでナイーブそうな、陰の魅力のある女の子です。

好き嫌いは分かれますが、冬虫夏草で知られる大竹茂夫さんの絵には、心惹かれる方も多いはず。中学生から。

9. 『ガール・イン・レッド』インノチェンティ

ガールインレッド

『ガール・イン・レッド』ロベルト・インノチェンティ原案・絵、アーロン・フィリッシュ文、金原瑞人訳、西村書店、2013  amazon

舞台を大都会のビル街〈THE WOOD〉に移した、斬新な現代版赤ずきん。「赤ずきん」は、フード付きの赤いコートを着た、お母さんと妹と3人暮らしのソフィア。見たくない、ダークな現実が浮き彫りになる教訓が、ゾクッとするほど効いています。また、ソフィアを心配するお母さんの姿も描かれ、大人の共感を呼びます。絵には、いろいろなものが隠れているので、細部までお見逃しなく。

不思議なおばあさんが子どもたちにお話をしているという形をとっていて、どんな結末を選ぶかは、お好み次第。中学生から。

10.『赤ずきん』サラ・ムーン

赤ずきん(サラ・ムーン)

『赤ずきん』(ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ)シャルル・ペロー著、サラ・ムーン写真、定松正翻訳、西村書店、1989  amazon

昔話や童話を現代のイラストレーターや写真家が手がけた「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」の赤ずきんは、モノクロの写真絵本。こちらも、舞台は現代に置き換えられています。赤ずきんの繊細さ、危うさが全面に出ていて、美しい。

民話に忠実なお話で、息をのむ怖さのある結末です。大人の方に。

にこっとポイント

  • 好きな1冊をくり返し読むもよし、いろいろな絵本を試してみるもよし。楽しんでいただければと思います。
  • ロングセラーも多いので、大人の方は、子どものころに読んだ絵本が見つかるかもしれません。最近出版された絵本を読み比べると、「今」の気分も味わえます。

 

(にこっと絵本 高橋真生)

おすすめの記事