早咲きの水仙がちらほらと見られる季節になりました。
今日ご紹介するのは、春の訪れを告げる水仙の花が印象的なクルドのお話、『カワと7にんのむすこたち』です。
『カワと7にんのむすこたち』アマンジ・シャクリ& 野坂悦子文、おぼまこと絵、福音館書店、2015 amazon
昔、カワという鍛冶屋がいました。カワの自慢は、7人の息子たち。
父さんのカワも、母さんも息子たちも、みんな働き者です。鍛冶屋の仕事をしたり、羊を育てたりしながら、村の人と助け合い、幸せに暮らしていました。
さて、その頃、国を治めていたのは、パシャという王様でした。
ところがパシャは、悪魔にだまされてしまい、両方の肩からヘビが生えてきてしまったのです。
殴っても切り落としても死なないヘビによる痛みを抑えるために、パシャは2頭の羊の頭をささげなくてはなりませんでした。
パシャの兵隊は、都だけでなく村にまでやってきて、羊を次々と奪っていきます。人々は嘆き悲しみましたが、ヘビが羊に飽きると、今度は男の子を二人ずつささげなくてはならなくなります。
パシャを倒したくても、雪のため都に進むことは難しい。
そこでカワは、息子たちを山に逃がし、ノウルーズ(新年を祝う日)まで生き延びてほしい、そして春を知らせる水仙の花が咲いたら、山のてっぺんで火をたくようにと言います。
寒い冬、大人も子どもも辛抱を重ね、さあ、ようやく春がやってきました。7人の息子たちは、鍛冶屋の仕事のときと同じように、火をおこし、ふいごで風を送り、火をどんどんどんどん大きくしていきます。
それを合図に、人々は「ハッ フム ハー!」と都に、そして城の奥へと突き進み……。
「かならず はるは おとずれる」― ユネスコ無形文化遺産「ノウルーズ」
ノウルーズは、日本ではメジャーではありませんが、世界各国で主に春分にお祝いされている行事で、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
カワという鍛冶屋が王様を倒したという言い伝えを持つクルドの人々は、この日、高い所で焚き火をし、松明を掲げて練り歩くのだそう。この火には「勝利の火」という意味があると言われています。
ドキドキするストーリーだけでなく、景色も建物も服装も、何もかも日本とは違うカワの国の暮らしが、細やかに描かれているのも楽しめます。
もしかしたら、表紙を見て怖そうなお話かと思ってしまったかも? けれども、中の絵からは、やわらかさやかわいらしさも感じられます。「肩からヘビ」「捧げもの」というと、ちょっとおどろおどろしいイメージがあるかもしれませんが、気持ち悪さはないはずです。
権力と悪魔の結託に、小学生の思うこと
以前この絵本を読んだときに、「パシャがかわいそう」と言った小学生がいました。悪魔にだまされただけなのに、と。逆に「権力で、人々を苦しめたのだから仕方ない」という感想もありました。
成長して、クルドの歴史に触れたとき、この絵本をまた読み返してほしいと思っています。炎や水仙が、より強い輝きをもって見えるかもしれません。
また、パシャを倒し、新しい王様にとみんなに言われたカワのその後にもご注目ください。カワ父さん、あたたかくてかっこいい! ですよ。
ちなみに、小さなお子さんには、7人の息子たちの名前や担当する仕事を覚えるのを楽しむ子もいます。「これは、ディラーンだよ」なんて教えてくれたりします。
そんなときは、「お話を楽しんでほしいのに」と焦らずに、ぜひ会話を楽しんでくださいね。
ノウルーズの日だけではなく、水仙を見かけたとき、秋の夜長にいつもとは少し違う物語を読みたいとき、寒くなってきたころなどにもおすすめの絵本です。
にこっとポイント
- ノウルーズにまつわるクルドの言い伝えを元にした昔話絵本です。
- ストーリーはもちろん、景色も建物も服装も、日本とは違うカワの国の暮らしが目でも楽しめます。
(にこっと絵本 高橋真生)