緑の木々とカラフルな生きもの。おしゃれで、かわいらしく、飾っておきたくなるような表紙の絵本です。
『ナマケモノのいる森で』アヌック・ボワロベール、ルイ・リゴーしかけ、ソフィー・ストラディ文、松田素子訳、アノニマスタジオ、2012 amazon
開いてみても、その期待は裏切られることはありません。「わあ!」と声があがるような、見事なポップアップの森。しかも、前からも横からも後ろからも、どこから見てもいいしかけになっている、本当の「森」なのです。
「森は生きていました」
「鳥も、ヒョウも、アリクイも、ヒトも、そして ナマケモノも」
「ほら、さがしてみて」
語りかけるような優しい声に導かれ、生きものたちを探します。
意外となかなか見つからなくて、森を、隅から隅まで眺めます。まるで、森の中を歩き回るかのように―。
そんなふうに眺めているうちに、その森が、とても好きになってしまいます。
ところが、ある日、森に「シャーン シャーン!」と冷たい音が響きました。
驚き、逃げていく動物たち。真っ赤なショベルカーが、木を切り倒します。
「森は ぶるぶる ふるえます」
ページをめくるごとに、どんどんどんどん減っていく木、緑、動物たち。ナマケモノは、逃げ遅れてしまいました。
「森は 死んでしまったのでしょうか」
「ナマケモノも 死んでしまったのでしょうか」
何もかも消え失せ、真っ白になってしまった大地を前に、私たちにできることは何もありません。
けれど、ある日、そこへやってきたひとりのヒト。そのヒトがまきつづけた種が、やがて大地を押し上げます。
しかけ絵本というと、なんとなく、にぎやかなイメージがありませんか? 楽しい、きれい、かわいい、おもしろい、迫力がある…… というような。
けれども、この絵本を読んで、私が強く感じたのは「悲しみ」と「喜び」でした。
破壊されていく森を目の前に、ただ見ていることしかできない悲しみ、無力感。
それから、ひとりのヒトが、まいてくれた― まき続けてくれた― タネから芽が出てきたときの喜び。
フラップをひくと芽が出てくるそのしかけに、自然の強さと、同じヒトである自分に、まだできることのあるうれしさを感じました。
『ナマケモノのいる森で』は、静かな静かなしかけ絵本です。けれども、自分の中で感情が大きく動くような、インパクトのある絵本です。小さな子でも、ナマケモノを追いかけながら、森や木の大切さを感じるでしょう。
また、心がぺしゃんこになっている人にも、このフラップをひいてほしいと思います。もう自分には何もないと思っても、きっとまた美しいものが戻ってくる。あきらめないで種をまき続けてほしい。そう願うときに、贈りたい絵本です。
にこっとポイント
- 360°どの角度からも楽しめる美しく、繊細なしかけがとても魅力的な絵本です。森の変化が一目でわかり、また自然に対して自分の手で変化をもたらすことで、森林や自然を守ることへの意識が湧いてきます。
- 大人の方へのプレゼントにもおすすめですが、深いメッセージの込められた絵本ですから、贈る理由や絵本の感想などを添えると、より喜ばれると思います。落ち込んでいる人にも、おすすめです。
(にこっと絵本 高橋真生)