初めて見るもの、初めて触れるもの、初めて行くところ…… 子どもの毎日は「初めて」であふれています。本当に、毎日が冒険なのですよね。
では大人はどうかというと、大人であっても、やっぱり、毎日小さな冒険はあるのではないかと思うのです。
初めてのお店で買いものをした、長年育てていた観葉植物が突然ぐんぐん成長し始めた、スマホが壊れて数年ぶりに購入した(← 先週の私)、などなど。
そんな冒険の楽しさを思い出させてくれるのが、こちら『タコのオクトくん』。
『タコのオクトくん』富安陽子ぶん、高畠純え、ポプラ社、2002 amazon
タコとうさんとタコかあさんと3人で、海の底の洞穴に住んでいる、ぼうやのオクトくんが主人公です。
ある日、タコとうさんとタコかあさんが、若い頃、海を抜け出して、食べに行ったおいしいものについて話していました。
それは、でっかくて、紫色に実って、とれたてでおいしいナス!
それを聞いたオクトくんは、大声で叫びます。
「じゃあ、ぼくが ナスビを とってきてあげるよ!
だって、ぼくは わかいんだもん」
タコとうさんとタコかあさんは、おチビちゃんには無理だと笑いますが、オクトくんはもちろん、2人の目を盗んで冒険に出発します。
スリー、ツー、ワン、はっしゃ!
ぷりぷりピンクのオクトくんのかわいらしさ、タコらしい行動のおもしろさ、そして、ピンチを切り抜け無事に帰る安心感。
夢中になってしまう要素がたっぷりつまっていますが、私がとても好きなのは、自然の描写と美しい色合いです。
「ぎんいろの まくでも はったように」輝く海、「あおい やみの そこに」広がる夜の町、「いりえを まわりこんで うみへと つづく ぎんいろの リボンみたいな かわ」― オクトくんの五感が、そのまま自分につながっているように、水の音やにおい、風までが感じられるのです。
本を読むことは旅だとよく言いますが、まさにその通り。この絵本を開くことで、いつでも夜の旅を楽しむことができます。
読み終えた後の小さな子どもたちの「タコ化」もまた楽しいものです。
さて、夏休みの始まった学校も多いことでしょう。
子どもの夏休みを最初から最後まで笑顔で過ごせる親なんて、実は少数派ではないかと思います。宿題の進み具合は気になるし、ご飯を三食作るのは大変だし、きょうだいげんかは手が付けられないし……。延期や中止になってしまったお楽しみもありますよね。
気持ちがモヤモヤしてきたら、気持ちを切り替える魔法の呪文として、つぶやいてみてください。
スリー、ツー、ワン、はっしゃ!
家族やおうちの中の「初めて」が見つかれば、きっと夜の海のような心地よい風が吹いてくると思うのです。
7月も残りわずか、皆さんどうぞよい夏をお過ごしください。
にこっとポイント
- タコのオクトくんのかわいらしさ、冒険の楽しさ、自然描写の美しさのつまった、読むと元気になる絵本です。
- 3・4歳くらいのお子さんはもちろん、しばらく絵本を離れていたような小学校高学年にも喜ばれる絵本です。
(にこっと絵本 高橋真生)