PICK UP! 空のきれいな季節に……「飛ぶ」絵本

それは、ハロウィーンの夜のこと。ジャックは、仮装パーティーに行く途中で、2人の魔女がほうきに乗って飛んでいるところを見かけました。後を追って森へ入ってみると、そこでもパーティーの準備が始まっていて……。

魔女たちのパーティー
『魔女たちのパーティー』ロンゾ・アンダーソン文、エイドリアン・アダムス絵、野口絵美訳、徳間書店、2017 amazon

パーティーの参加者は、「まじょ」に、「こおに」「ひとくいおに」と、<あちら>の世界の住人たち。でも、みんな<人ではない>という共通点はあるものの、キャラクターはユニーク。性格も、結局見つかってしまったジャックへのふるまいも、それぞれ違います。

人間を食べたがる様子にはゾクゾクしますが、ひとくくりに怖い存在として描いていないのが、この絵本の素敵なところだと思うのです。

たとえばこちらは、小鬼のお母さんのことば。

あんたと しりあえて、よかった。
にんげんって、らんぼうで ざんこくだって きいていたけど、
あんたみたいな にんげんも いるんだね。
こどもたちにも、それが わかって よかったよ。

「にんげん」を「おに」に置き換えても全く同じことが言えますね。私はこう言ってもらえて、人間としてじんわりとうれしく、そして背筋が伸びるような気持ちになりました。

また、幻想的で繊細な絵も、深く印象に残ります。

大きな満月の中を飛ぶ魔女、真っ暗な森に浮かぶようなランタンの光、大迫力の人食い鬼たち…… 夜空や森の黒と、濁りのある明るい色のコントラストが美しく、大判の絵本の中に広がる別世界に吸い込まれてしまいそうです。

そして魔女も鬼たちも、一人ひとり(?)細かく描かれているのですが、それが、実にチャーミングなのです。怖いけれど、なんとなく好きになってしまうような、そんな表情をしています。

季節の行事の絵本としてハロウィーンの雰囲気を楽しむだけではなく、物語を味わえる絵本です。きっとハロウィーンになるたびに、開きたくなりますよ。

にこっとポイント

  • ヒヤリとしたりワクワクしたり、ハロウィーンらしい楽しさが味わえます。また、人間の男の子と<あちら>の世界の住人たちとの心の交流には、ほんわかとあたたかな気持ちになります。
  • パーティーのごちそうは、もちろん(?)コウモリのシチュー! 読んだ後に、魔女たちのパーティーのメニューを考えたり工作してみたりすると、小さな子どもたちもはりきって参加してくれます。
  • 以前祐学社から出版され(1981年)長く絶版となっていたのですが、徳間書店より新訳再版されたものです(2017年)。


(にこっと絵本 高橋真生)

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