今回ご紹介するのは、冬の澄んだ空気にぴったりの絵本『サーカスのしろいうま』です。

『サーカスのしろいうま』石津ちひろ作、ささめやゆき絵、小学館、2010 amazon
ニーナは、おばあちゃんと一緒に、村の教会のそばに住んでいます。
ニーナの宝物は、おじいちゃんの形見のバイオリン。おばあちゃんの喜ぶ顔が見たくて、毎日少しずつ練習をしています。
さて、そんなニーナの村に、サーカスがやってきました。
華やかなサーカスですが、そこには、家族がいなくなったためにサーカスに引き取られた男の子・ミハエルと、穏やかな性格の白い馬・ニジンスキーがいました。
でも、二人(一人と一頭)は、芸が何もできず、とうとう団長さんに、ペアで何かをできるようになれと言われてしまったのです。
つらい練習をくり返すうちに、ニジンスキーは、ほとんどえさを食べなくなります。そして、とうとう、サーカスから逃げ出してしまいました。ミハエルは後を追います。
たどり着いたのは、ニーナの家。そこでは、バイオリンの音色も、ニーナもおばあちゃんの心遣いも優しくあたたかく、そういったものに触れたミハエルは、なつかしい歌を思い出します。
そしてなんと、ミハエルが歌う声に合わせて、ニジンスキーもステップを踏み始めたのでした。
心をあたためたいときには
ミハエルは、家族を失ったときに、自信はおろか、自分の芯のようなものもなくしてしまったのかもしれません。
与えられた居場所を手放さないために、焦ってしまうのも、当然です。ニジンスキーが、逃げ出してくれてよかった!
サーカスの明るい光の中、ニジンスキーの踏む春風のように軽やかなステップは、私には、思い出と共に自分を取り戻したミハエルのこれからへ続く歩みのように感じられました。
彼らを救うこととなったニーナとおばあちゃんも、きっと苦労してきているはず。でも、思いやりに満ちた優しい心を持っています。
登場人物の繊細でやわらかな心やその動きが素直に描かれているせいか、読んでいる自分の気持ちも明るく静かになっていきます。
澄んだ色、特に青の清らかさと、登場人物の心の混じりけのなさは冬の空気にぴったり。美しい音色が聴こえてきそうです。
寒い冬に、落ち込んだときに、心をしっかりとあたためてくれる絵本です。
にこっとポイント
- 家族を失った少年がサーカスに引き取られ、白い馬と一緒に、居場所を得ていく物語です。
- 思いやり、居場所、音楽、努力…… ストーリーを味わうだけでなく、読む人・読むタイミングによって、さまざまな視点の感想が出てくる絵本です。秋冬のプレゼントにもおすすめです。
(にこっと絵本 高橋真生)









