川には、ふだん人がはいることのない水の世界があり、そこには、ヴォドニークという不気味な水辺の主が住んでいました。
ヴォドニークは、気まぐれに水の世界からでてきてはいたずらをしかけたり、人をおぼれさせたりするのでした。
『ヴォドニークの水の館 チェコのむかしばなし』まきあつこ文、降矢なな絵、BL出版、2021 amazon
『ヴォドニークの水の館』は、チェコの昔話です。
ヴォドニークというのは、中央・東欧の昔話やスラブ神話に出てくる魔物のこと。日本では河童と紹介されることもあります。
ヴォドニークには、さまざまなお話が伝わっていて、人の命を奪うことがあれば、ちょっと親切なこともある。見た目は、ひげがポイントですが、燕尾服を着た男の人だったり、カエルのようだったりします。
さて、こちらの絵本に出てくるヴォドニークは、顔が緑、燕尾服も緑、ひげとおしりくらいまである長い髪の毛は赤茶色です。
ある日、貧しい家の娘が、川に身を投げようとしているのを見つけたヴォドニークは、娘を水の館に連れてきました。
おいしい食事をふるまってもらい、元気を取り戻した娘に、ヴォドニークは言いました。
毎日館の掃除をすること。ストーブの火を絶やさないこと。ストーブの上に置いてあるたくさんの小さなつぼは、決して中はのぞかないこと。
けれども、ある日、そのつぼの一つが音をたてていました。娘がふたを開けると、中から、以前川でおぼれ死んだ弟のたましいが飛び出してきたのです。
むすめは、ヴォドニークが、つぼの中に、おぼれさせた人たちのたましいをとじこめていることに気づきます。そして……。
少しこわいような、とても不思議な昔話です。
私は、この絵本の絵が、とても好きです。
静かで、水の重さを感じるような雰囲気。意外とカラフルで、かわいらしい意匠も多い水の館。そして何より、美しいたましい。
まるで自分が、水底に吸い寄せられたかのような、そんな感覚になるのです。
「さあ、自由になるのよ」― 貧しさに打ちひしがれていたころとはまるで別人のような娘の姿にほっとしますが、こわいようで、優しいようで、どこか寂しげなヴォドニークのことも気になります。
雨が降る日に、しっとりと、この水の世界への旅を楽しんでいただけたらと思います。
にこっとポイント
- 美しい絵が印象的な、チェコの昔話です。ヴォドニークという魔物は、日本では河童と紹介されることもあります。
- ヴォドニークはこわい? それとも優しい? 人によって、印象が違うかもしれません。ちなみに、東欧のものを扱う雑貨屋さんで、ヴォドニークグッズを見かけることがありますよ。いろいろなお話があるけれど、あちらでは人気なのかな…… と勝手に思っています。
(にこっと絵本 高橋真生)