PICK UP! 入園・入学&卒園・卒業に読みたい絵本

ケンタウル祭の夜、少年ジョバンニは町はずれで汽車の音を聞きます。気がつくと、そこは銀河鉄道の中。親友カンパネルラとともに揺れる列車の中で座っていたのでした。

宮澤賢治の代表作『銀河鉄道の夜』で、少年たちは、北十字、白鳥、鷲、と星々のあいだを巡りながら、さまざまな人に出会います。「死による旅立ちと別れ」も大きなポイントとして読むことができます。

幻想的な世界が描かれますが、さすが宮沢賢治、星座、鉱物についての描写では、色や材質は細やかで、わたしたち読者が物語に入り込んでいくと、荘厳な音色が聞こえてくるようでもあり、芳しい匂いまでもが立ち上ってくるようでもあるのです。

『銀河鉄道の夜』読み比べ

文学作品の絵本化については、以前ご説明したことがありますが、絵の描き手の解釈や表現したいポイントによって大きくその内容は変わってきます。

文章が長く、想像力や読解力の必要とされる重厚な文学作品であればあるほど、それぞれの描き手がビジュアルで訴えかけるポイントを練りに練って、渾身の表現を絵本の限られたページにぶつけてくるのです。

その贅沢な表現を味わえる絵本を、今回は4冊ご紹介します(原作者は全て宮澤賢治です)。

1.金井一郎版

『銀河鉄道の夜』金井一郎
『銀河鉄道の夜』金井一郎絵、mikiHOUSE、2013 amazon

作者が「翳り絵」と呼ぶ画風で描かれた、とても幻想的な絵柄が特徴の絵本です。その表現は、黒いラシャ紙に針で穴をあけていき、その後ろから光をあてて浮かび上がる光の粒の集積によってなされています。

原文の旧字・旧仮名・送り仮名に関しては現代の表記を使用。巻末に、物語に出てくる「言葉の説明」があり、わからないことばが出てきたときに調べることができます。

2.清川あさみ版

『銀河鉄道の夜』清川あさみ『銀河鉄道の夜』清川あさみ絵、リトルモア、2009 amazon

アートディレクターとしても活躍している作者の、糸やスパンコール・ビーズなどを使ったきらびやかな表現が特徴です。星や鉱物について描写の多い「銀河鉄道の夜」の世界を表現するのにぴったりな画風といえるでしょう。

文章は、現代仮名づかいの表記で記されています。

「日光を吸った金剛石のよう」に光るとうもろこし畑の場面の鮮やかな眩しさを表現したページは、必見です。

『銀河鉄道の夜』清川あさみ_中ページ

3.小林敏也版

『銀河鉄道の夜』小林敏也
『画本 宮澤賢治 銀河鉄道の夜』小林敏也画、好学社、2015 amazon

「スクラッチ」という技法を用いた、版画のような風合いの画風。単色や2色の色合いの中で、登場人物の表情や、情景を詳細に描写しています。大胆な絵の構図や、人物の目線、クローズアップされた対象物の描写が秀逸で、開いた画面から目が離せなくなります。

文章は、現代仮名づかいの表記に改めてありますが、かっこ付きルビで本来の表記も記載しています。絵に合わせて文章のレイアウトがさまざまに配置されているため、文章の多い絵本では感じがちな、単調な印象を感じることなく読むことができます。

4.藤城清治版

『銀河鉄道の夜』藤城清治
『銀河鉄道の夜』藤城清治影絵と文、講談社、1982  amazon

影絵絵本で人気の藤城清治さんによる絵本です。絵本巻末によると、ジュヌ・バントルとの影絵劇「銀河鉄道の夜」をもとに、演出、撮影、構成されたものだそうで、文章は原文より短く、ことばもわかりやすく編集されています。小さい子どもにも読みやすい内容です。

わからない部分はそのままでいい― 心に響いたことを大切に

絵本の読み方も解釈も、読者の手に渡ったときから、すべて読者のもの― 絵本に触れるにあたっての、わたしの信条です。

読者の経験、想いによって、その絵本に心揺さぶられる「共鳴レベル」や「共鳴ポイント」は違ってくると思うのです。誰かにとっては、「わからない」と感じるものも、誰かにとっては「心に残る」1冊だったりします。

お話を全部理解しようとしなくても、よいと思うのです。

同じお話でも、作り手によってその表現は三者三様、「なんだかあの場面が心の片隅にずっと残る」「絵の雰囲気が好き」など、ぜひあなたに響く「銀河鉄道の夜」を探してみてください。

にこっとポイント

  • さまざまな解釈の余地のある文学作品だからこそ楽しめる絵本。お好みの「銀河鉄道の夜」に出会ってみてくださいね。
  • 星座早見盤を手に、夏の夜空を見上げてみたり、夏のお盆の季節に、夜空を天へと旅していく大切な人に想いを馳せてみたりするのもよいですね。
  • 1985年に製作されたアニメーション映画「銀河鉄道の夜」もおすすめです。登場人物は猫に置き換えられていますが、原作の世界が忠実に表現されています。
  • 宮沢賢治の故郷、岩手県には、銀河鉄道の世界を感じることができる「S L銀河」が走っています。「銀河鉄道の夜」を生み出した岩手の地の文化・自然に触れることができます。


(にこっと絵本 Haru)

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