『きつね森の山男』馬場のぼる作、こぐま社、1974 amazon
山奥からやってきた山男が、きつね森にねぐらを定めます。でも、きつねたちは、お城の殿さまとの大戦争を控えていました。
寒がりやの殿さまが、なんと、きつねの毛皮で冬にぬくぬく過ごそうと企んだのです! 山男は、その争いに巻き込まれるのですが……。
さて、この絵本の一番の核、ハッピーエンドへのキーとなっているのが、ふろふき大根です。
「まず、だいこんを わぎりにぶったぎるだ。それをにるだ。」
「にえたらば、みそのたれをつけて、くうだ。くったらば、ほかほか あったまるだ。」
豪快な料理風景、ほくほく立ち上る湯気、よだれがたれそうなふろふき大根の実食の描写は、なんとも読者を惹きつけるものがあります。もうすぐ寒い冬がやってくる…… なんて陰鬱になりがちな気持ちを、吹き飛ばしてくれる魅力があるのです。
また、きつねや山男、殿さまや、忍びの者が登場し、昔話風のお話の中で、リズミカルに、そしてコミカルにことばが紡がれていくので、お気に入りのセリフ、まねしたくなることばを楽しみながら読むことができます。
「めえっと にらみました」「にわっと わらった」なんて表現も出てきるのですが、どんな表情だったんだろう、と想像も膨らみますよね。
また、山男が、ふろふき大根のあっついのを食いながら、まっかっかのぶどう酒をきゅっとやる、という場面もあります。大人にとっては想像するだけでたまらないですよね。ほかほか心も体もあったまる、冬が待ち遠しくなるような絵本です。
にこっとポイント
- きつね軍と殿さまの争いに巻き込まれた山男のお話です。ハッピーエンドをもたらすふろふき大根が食べたくなります。
- 11ぴきのねこシリーズで有名な馬場のぼるさんの作品です。作者らしいユーモアたっぷりの展開や描写についついくすっと笑ってしまうはず。ラストの「月の青い晩」という表現もわたしの大好きなポイントです。虚無僧やオランダ人に化けるきつねたちを見たらきっと心がほんわかするはずです!
(にこっと絵本 Haru)