なつの あさは みんな しろい
夏の朝、草むらの一本道を自転車で走る男の子。いくつもの丘を越え、ひときわ大きな丘のてっぺんに座ると、いつものあの音が聞こえてきます。
「だっだ しゅしゅ」「だっだ しゅしゅ」それは、大好きな汽車の走る音。
『なつのあさ』谷内こうた文・画、至光社国際版絵本、1970 amazon
「おかあさん ただいま ぼく くれよんで きしゃを かくの」「あしたも きしゃを みにいくよ」
白い光に満ちた緑の景色に、男の子の弾けるような喜びが広がります。
『なつのあさ』で描かれているのは、人だけではなく、草や木までが眠っているような、夏の朝のごく短いひと時です。やさしい絵と、シンプルで分かりやすくストーリーは、小さなお子さんでも「だっだ しゅしゅ」と口ずさみながら楽しむことができます。
静かだけれど、希望に満ちていて、幸せ― そんなふうに、穏やかな絵本です。
が。
時に大人は、切なさをかきたてられることもあるようです。
ある人は、あっという間に過ぎてしまう「子ども」の時間に寂しさを覚え、またある人は、大好きな汽車で心も身体もいっぱいにする男の子と何も夢中になるものがない自分を比べて、残念な気持ちになると言います。
触れるのをためらうような美しさに、なんだか胸がキュッとつかまれてしまう…… そんな気持ち、確かにわかる、と私も深くうなずきました。
そして、こんなふうに感じる心と語り合うことばを得ることができたのは、大人になったからこそ、とも思うのです。
子どももいいけど、大人もいい。
『なつのあさ』は、誰にでもに訪れるひと時を、特別なものに変えてくれる絵本です。
にこっとポイント
- シンプルなストーリーとリズムのあることばで、小さなお子さんも楽しめる絵本です。
- 大人が読むと、どこか切なくなるような味わいがあります。
(にこっと絵本 高橋真生)