暑-いときに読む絵本、夏らしいのもいいけれど、私は氷や雪がふんだんに出てくる絵本もよいと思っています。読み終えた後、なんとなく涼しくなるのが好きなのです。
今回ご紹介するのはこちら、『ホッキョクグマのプック』です。
『ホッキョクグマのプック』あずみ虫作、童心社、2023 amazon
ここは、カナダの北極地方。ホッキョクグマの赤ちゃんが生まれました。目は閉じたまま、歯も生えていないこの小さな赤ちゃんの名前は、プック。
プックは、あたたかいお母さんの腕の中で、愛情をたっぷり注がれ、すくすくと育ちます。そして外の世界では、いろいろなものと出会います。シロフクロウに、ヘラジカに、それからライチョウ……。
小さくてまあるい体のプックが、驚きのまま、広い世界を弾むように駆け回るのが本当に愛らしい!
けれども、もちろん、自然というのは、美しくて楽しいだけではありません。
子どものクマにかみつくこともあるオスのホッキョクグマに出会ったり、お母さんとはぐれてしまったり……。吹雪の中、何度もお母さんを呼ぶプックの姿を、子どもたちは真剣に見つめます。
でも、大丈夫。「こわい」ときにどうしたらいいのか、プックはちゃんと教わっていましたよ。
そして、プックは、お母さんのところに戻るその前に、すばらしい景色を見ることもできます。「うわぁ、そらが おどってる!」― それが何か、どれだけ美しいのかは、ぜひ絵本でご覧くださいね。
ところで、もしこの絵本を子どもと一緒に読むことがあれば、ぜひ、話していただきたいと思います。温暖化のこと、そしてその影響でホッキョクグマがたくさん死んでしまっていることを。
あとがきによると、この絵本の作者のあずみ虫さんは、野生動物を観察したいという気持ちから、1年の半分をアラスカで暮らしているそうです。
かわいいプックやドキドキするお話にひき込まれるのは、プックの動きの一つひとつ、動物たちの住む自然がきちんと描かれていて、「本当」だと感じられるからかもしれません。
「本当」に、この地球上に住んでいるプックや生きものたち。プックのようなホッキョクグマのために、絵本の中の自然を守るために、自分にも何かできるのではないか、と考えるのは、とても大切なことです。
けれどもそれは、温暖化についての知識を無理に押し付けるのとは違い、物語を楽しんだからこそ、生まれてくる感情であり考えであると思うのです。
涼やかであたたかな気持ちになる『ホッキョクグマのプック』、どうぞお楽しみください。
にこっとポイント
- ホッキョクグマの赤ちゃん、プックの冒険物語です。かわいらしいプック、美しい自然が印象的。動物や地球温暖化について考えるきっかけにもなる絵本です。
- 絵は、アルミ板でできた金属板を切り、絵の具で着彩する技法で描かれています。不思議な立体感があって、私は何度見ても飽きません。
(にこっと絵本 高橋真生)