赤ちゃんのときに飲んだ森永砒素(ひそ)ミルクで後遺症を抱えることになった「はせがわくん」との毎日を綴る、「ぼく」のお話。
『はせがわくんきらいや』長谷川集平作、復刊ドットコム、2000(原作初版は1976年) amazon
「ぼくは、はせがわくんが、きらいです。はせがわくんと、いたら、おもしろくないです。なにしてもへたやし、かっこわるいです。」
幼稚園のときに、乳母車に乗って「ぼくら」の元にやってきた長谷川くん。一緒に山に登ってもすぐへばってしまうし、虫が嫌いで、すぐ泣くし、野球もへたっぴで「ぼくら」のチームは結局勝てないのが頭にくる。でも―。
墨で描いたような、荒くも大胆な絵柄が特徴です。魚眼レンズをのぞいているような場面や俯瞰で見ているような場面など、迫力のある構図は際立ち、つらつらと語られる「ぼく」のことばがより胸に迫ってきます。
「ぼく」の本当の愛情
ぼくはちいさいころ よわみそやった。
二十歳でこの絵本を執筆したとき、あとがきに、長谷川集平さんはこう書いています。きっと、この絵本の「はせがわくん」は筆者自身。自分と、自分を取り巻く友人たちとのことをベースにこの絵本を書いたのでしょう。
「きらいや」という強いことばに読み始めは心が怯(ひる)みますが、読み進めていくうちに、「ぼく」の長谷川くんに対する複雑な思いに気づきます。
一見ぶっきらぼうで、簡単に「優しさ」と呼ぶのはふさわしくないような、心の根底にある長谷川くんへの愛情。その思いが、たくさん溢れているのです。
自分と、他者と― 共に過ごすということ
学校や職場― そこは自分の意思に関わらずさまざまな趣味嗜好・人格を持った人が集められている集団です。その中には、自分とペースの合わない相手や、強いことばを投げかけてくる相手が少なからずいるかもしれません。
その中で、自分以外の相手とどう関わり、どう生きるか。そのヒントをこの絵本からもらえるように感じます。
「長谷川くん 泣かんときいな。長谷川くん わろうてみいな。長谷川くん もっと太りいな。長谷川くん ごはん、ぎょうさん食べようか。長谷川くん 大丈夫か。長谷川くん。」
この絵本の「ぼく」のように、誰かに愛情を注げる人になれたら、また自分に愛情を注いでくれる人に出会えたら……。それはとても幸せなことですね。
誰かに手、ならぬ心を差し伸べられるような人が一人でも増えることを願って、おすすめする1冊です。
にこっとポイント
- 「ぼく」の長谷川くんへの思いに触れ、心が大きく揺さぶられます。人間関係を見つめ直したいときにおすすめです。
- まず相手に愛情を注ぐ人になれたら、毎日は少しだけ豊かなものになるかもしれません。
(にこっと絵本 Haru)