子どもも大人も夢中にする、おにぐものあみぞうのこと、ご存じですか?
『くものすおやぶんとりものちょう』秋山あゆ子さく、福音館書店、2005 amazon
春爛漫の虫の町。春祭りを明日に控えたその日、甘味の老舗「ありがたや」に盗人(ぬすっと)から手紙が届きます。
それは、お祭りのために用意したお菓子を狙う「かくればね」からの、盗みの予告状。
ありがたやは、「くものすおやぶん」ことおにぐものあみぞうに助けを求めます。おやぶんは「よしっ、おいらに まかせな」とかくればねを捕まえるべく、はえとりのぴょんきちと罠をはり―。
ここまで読んでお気づきの方もおいででしょうか。そう、この虫の町、なんと江戸(風)なんです。
それでは、お店や蔵の立ち並ぶ小道や、柳に桜の美しい川べりを、ちょっと歩いてみましょうか。
兜を扱う古道具屋さんの主はカブトムシ、小さな子をたくさん連れてありがたやへやってきたのはカマキリ、本を背負っているのはシミかもしれません。
華やかなチョウの町娘に、亀柄の着物の裾を帯に挟み込んでいるカメムシ、六角形の柄が愛らしいミツバチ三姉妹と、着物の柄もさまざまです。
それぞれの習性や雰囲気に合った様子の虫たちは、やさしいタッチとリアルさのバランスが絶妙で、思わずふふふと笑いが漏れます。
さらに耳に飛び込んでくるのは、「ふていやろうだぜい」「がってん しょうち」「……じゃあねえですか」と、テンポのいいべらんめい口調。
つまり、『くものすおやぶんとりものちょう』は、たくさんの虫たち一人ひとりの暮らしぶりや生きざまが見えてくるような、絵もことばも実にいきいきとした時代劇なのです。
そのテンポの良さ、痛快なストーリー、たっぷりつまった江戸の情緒と人情は、大人が読んでも心が浮き立つほど。
子どもたちは、絵本の世界を飛び出して、捕物帳ごっこに夢中になります。眼光鋭い渋めの男前、われらがおやぶんになりきって「ええい ごようだ」― 手に握るのは、もちろん十手です。
私は決して虫好きえとは言えませんが、この町のことを思うと、虫を見る目が少しあたたかくなります。少ーし、ね。
さて、おやぶんはどうやって盗人かくればねを捕まえるのか!? 見事に冴える糸の技、とくとご覧あれ!
にこっとポイント
- 虫が苦手な方も楽しめる虫の絵本です。
- 幼児からお年寄りまで、幅広い年齢の方に喜ばれる、読んで気持ちいい時代劇です。
- ほかに、くものすおやぶん ほとけのさばきがあります。『くものすおやぶんとりものちょう』は、特に桜の季節におすすめです。
(にこっと絵本 高橋真生)