汗ではりついた髪と服、上気した頬。楽しくて夢中で駆け回った夏の思い出。皆さんの心の中には、どんな夏の一日がありますか?
『なつのいちにち』はたこうしろう作、偕成社、2004 amazon
あついあついなつのひ。大きな虫取り網をかかげ、麦わら帽子をかぶった男の子が「いってきまーす」と、外へ飛び出していきます。
シャーンシャーンと鳴くクマゼミの声を体に浴びながら、男の子は走ります。カモメが悠々と舞う海辺をぬけ、遠くまで広がる田んぼをぬけ、虫たちの潜む草はらを蹴散らしながら―。
山の中での格闘の末、初めて自分1人で得た、クワガタ。夕立の中、ずぶ濡れになりながらも誇らしい思いで帰路につく男の子の姿に、心の奥の懐かしい思いをかき立てられるはずです。
むせかえるような夏を、五感で感じる
この絵本の中には、夏の音、匂い、風景が溢れています。鳴り響く蝉の声や、川のせせらぎ、牛たちのむーんと漂う独特の匂いまで、ページをめくっていると、体に刻まれた懐かしい記憶が蘇ってくるようです。
そして、神社の長い階段を、息を切らしながら登ったり、怪我をするのも厭わず飛びまわったり、何にも縛られずに思いきり遊ぶ自由な世界。クーラーの効いた部屋の中では、得ることのできない濃密な夏の時間がこの絵本には詰まっています。
現代の子どもたちにこそぜひ経験してほしい、開放感に溢れた夏の一日をこの絵本から感じてもらえたら、と思います。
にこっとポイント
- 大人から子どもまでが楽しめる絵本ですが、特に、子どもたちに、ぜひ届けたい1冊です。夏休み前に親子で読んで、夏への期待感を高めてみるのはいかがでしょうか。
(にこっと絵本 Haru)