「私、結婚します」とキッパリと言うその顔を、思わずまじまじ見つめてしまったのは、つい最近、彼女が「彼とは違うような気がする」とぼやいていたからである。

彼女の絵本

だから、彼女が30歳になる前に結婚すると固く誓っているのを知ってはいたけれど、プロポーズは断るのだろうと思っていた。

正直にそう言うと、「焦っているんです」と返ってきた。20代半ばで結婚する人の多い地方出身で、親からのプレッシャーを重く感じてはいたものの、その親が周囲からあれこれ言われるようになると、今度は申し訳なく、たまらなく焦りを感じているのだと。

そんなときに、婚活パーティーで知り合った彼からの電撃プロポーズ。迷いに迷い、彼女は決意する。

「結婚したい。親孝行もしたい。でも、すぐに結婚できる人とは出会えそうにない。だから、彼と結婚します」

彼に返事をするまであと数日というある日、彼女は私の持っていた絵本『バムとケロのにちようび』に目を止めた。パラパラとページをめくり、「これ、貸してくれますか?」と言う。もちろん、どうぞ。

バムとケロのにちようび

『バムとケロのにちようび』島田ゆか、文溪堂、1994  amazon

翌朝、彼女は言った。「私、今は、結婚するのやめます」ええっ! 今度は何で?

なんと、彼女は、バムとケロの関係が、猛烈にうらやましくなってしまったのである。

雨が降ったって、どちらかが失敗したって、2人でピンチになったって、一緒に笑って、フォローし合って、ああ、今日も楽しかった、と思えるような1日を過ごす。

「絵本だって分かっているんです。でも、ああ、いいな、私が欲しいのはこういう関係なんだ!って気がして」

両親には申し訳ない。でも、今は、ちゃんと「人」と向き合いたい。

誰もかれも「結婚相手候補」として見ている限り、その人との「今」が消えてしまう。私は彼との未来ばかり見ていて、関係なんて築けてなかったという気がするんです。

彼女は早口で言った。私も、彼にとって「結婚相手候補」なのではないか。ここからどうなるかは、分からない。だけど、ひとまず、今すぐ結婚するのはやめたい。

私にとって欲しいのは、彼とのほっとする「今」だから―。

 


 

こんなふうに、絵本の物語と誰かの物語が重なって、別の物語ができあがるとき、私はその力強さと繊細さにいつも圧倒されます。

犬のバムとカエルのケロの、何気ないけれど、あたたかでユーモアのある暮らしに、憧れる人は多いでしょう。細かいところまで描かれたその絵をぜひ見逃さないでほしいけれど、絵本から受け取ったものを、自分の中で熟成させるのもいいものだと思います。

本来の読み方、というものがもしあるのならば、時にそこから外れることがあるかもしれない。けれど、ほんのひと時無防備にした心を、絵本にポーンと射抜かれてみてはいかがでしょうか?

それは、大人ならではの絵本の楽しみ方でもある、と思うのです。

 


 

ありがたいことに、私・高橋真生宛に、「こんなときにおすすめの絵本はありますか?」というご質問をいただくようになりました。

というわけで、これから、絵本から離れていた大人や大人一歩手前の女性(もちろん男性も)からのご質問にお答えしつつ、その物語をご紹介していきたいと思います。名付けて「彼女の絵本」。これから、どうぞごひいきに。ご質問も、お待ちしております。

それから最後に、その後も彼女が、毎日を、一生懸命に楽しく過ごしていることを、付け加えておきますね。

(にこっと絵本 高橋真生)

※ご質問は、「お問い合わせ」からどうぞ!
※お答えまでには、気が遠くなるほどのお時間をいただくことと思います。どうぞご容赦ください。

「バムケロ」シリーズ島田ゆかさんの絵本

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