こんなお便りをいただきました。
新学期に環境が変わり、なかなか打ち解けられず、周りに合わせることが増えてしまいました。自由奔放な主人公の絵本を読みたいです。
そんなあなたにご紹介したい人がいます。こちら、たまごです(人じゃない!)。
『たまごのはなし』しおたにまみこ、ブロンズ新社、2021 amazon
やあ こんにちは。
わたしは たまご。いまから、
わたしのはなしを するからね。
よく きいておくんだよ。
このたまごは、ごく普通の、キッチンでじっと動かずにただ転がっていた卵でした。
ほかの卵たちと少し違うのは、ある日突然こう思ったこと。「どうして わたしは いつまでも こんなふうに ころがっているんだろ」って。
そしてたまごは、立ち上がってみたのです。それは思っていたより、ずっと簡単だったんですって。たまごには、スラっと長い、手足がついていました。
そこから、たまごは活動をし始めます。
ほかのたまごを起こそうとしたり、たまごにかじられて目を開けたマシュマロと、おしゃれな帽子を作ってみたり。
ばかなやつに あったりすると、
きみの いちが ずれるような かんじがする。
そんなふうに思うたまごですからね、余計なお世話を焼いてくる植木鉢やクッションなどは、豪快にやっつけてしまいます。
たまごは、口が達者で、率直で、その行動は、暴走のようにも当然の帰結のようにも見えます。
でも、ずれた黄身をそのままにせず、考え続けるたまごは、前向きで、どこか愛らしく、そしてうらやましく思えるのでした。
あなたにも、何かの拍子に黄身がずれたような気がすることがありますか?
そんなときどうしたらいいのか― 頭を抱えてしまったとき、このたまごを思い出していただければうれしいです。
時には、たまごに痛いところをつかれたような気持ちになることがあるかもしれません。
でも、たまごに翻弄されているうちに、雨上がりに差し込んできた光を「きれいだな」って思える、そんな心がきっと戻ってくると思います。
にこっとポイント
- 不思議なたまごの短いお話が、3話収められた絵本です。
- 『たまごのはなし』は、世界最大規模の絵本原画コンクール「第28回ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB 2021)の」第3席「金牌(きんぱい)」を受賞しています。美しくてシュールなイラスト、特にたまごたちの表情が私は大好きです。
(にこっと絵本 高橋真生)