虫に夢中だった「ぼく」。夏休みが明日で終わる、やり残したことが一つある― と、オオヒカゲチョウというチョウを追い求め、出発します。
『夏』あべ弘士文、ほるぷ出版、2023 amazon
『夏』は、絵本作家・あべ弘士が旭川で過ごした少年時代の原体験をもとに描く、夏の一幕です。
炎天下に響くコエゾゼミの声を聴きながら、畑の一本道を行く。雷が鳴り、夕立の予感を感じながら家路を急ぐ。
夏の音と匂いのわきたつような風景が、この絵本の中には広がっています。
これらは、「夏の思い出」と問われたとき、きっと多くの人が懐かしいと感じる、幼少期の夏の光景なのではないでしょうか。
さて、「ぼく」が追い求める、オオヒカゲチョウ。その羽に広がっていたものはなんだったのでしょう。
地図が広がり、地図の中にぼくがいる。地図の中のぼくは、どこからきてどこへ行くの。
絵本の中の「ぼく」は、そう自問します。
オオヒカゲチョウの羽をじっと見つめていると、その地図はどこまでも無限に続くかのようで、夏に夢中になった経験がその先の長い長い人生につながっているのだな、といった人生観にも通じる感覚さえもあります。
夢中になって思いきりやり遂げた後につながる自分の道は、どこにあるのか。私たちも、まだ、たどり着いていないかもしれませんね。
暑い暑い夏ですが、令和の子どもたちにとっても、夢中になれるものに出会える夏であってほしいと願っています。
にこっとポイント
- 多くの人が思い浮かべるような「夏の思い出」を、あべ弘士さんの描く旭川の夏の光景で、味わうことができます。キツネ、鳥、チョウなど、旭川ならではの色鮮やかな生きものも描かれています。
- 夏に虫取りに夢中になった経験に立ち返りながら、自分の人生の原体験に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
(にこっと絵本 Haru)