あたたかな春は、もう、すぐそこ。心がざわざわと落ち着かないこともあるかもしれませんが、この絵本を開くと、なんともほのぼとした気持ちになります。
『おりこうなアニカ』エルサベスコフさく・え、いしいとしこやく、福音館書店、1985 amazon
『おりこうなアニカ』のアニカは、いなかに住む小さな女の子。でも、とってもおりこうで、一人で服を着られるし、お手伝いもできるんです。
ある日、アニカの家のまきばの柵が壊れてしまいました。おかあさんが牝牛(めうし)のマイロスが逃げ出さないか心配するので、アニカは見張り番を買って出ます。
と、ここまではなんとも現実的。家の様子から木陰の動物たちまで、細かいところまで描かれた透明感のある絵も、かわいらしいけれどリアリティがあって、あくまで落ち着いた雰囲気です。
でも、一歩家を出た後のアニカはどうでしょうか?
大きな犬や小人家族と話をしたり、遊んだり。それどころか、小人にパンケーキ用のマイロスのミルクをあげるかわりに、バケツいっぱいの野イチゴをもらったりします。しかも、アニカにとっては当たり前、という様子です。
ごく自然に、日常の中にファンタジーが溶け込んでいるのですね。その「不思議」の気配に、子どもはもちろん、大人だってときめいてしまいます。
私は、特にアニカの素直なキャラクターが大好き。「そんなの、いらないわ」と遊びに誘う友だちをあしらったり、「あーあ!」とがっかりしたり、のびのび、キビキビしているんです。
通りすがりのおじいさんに勘違いで叱られてしまったときも、アニカはちゃんとその行動のわけを説明することができました。おじいさんも「ごめんごめん」と謝ります。
物おじしないアニカと、知らない子どもをきちんと注意できるだけでなく、間違っていたら謝れる「かっこいい大人」のおじいさんのこんなエピソードには、なんだかほっとします。
こんなときだからこそ。子どもも大人も、心はのびのびいきたいですよね。
『おりこうなアニカ』で、ドキドキしたり、春らしく透明感のある色を味わったり、気持ちは前向きに、ゆったりとした時間をお過ごしください。
にこっとポイント
- 現実とファンタジーの世界がすぐ近くにある、絵本の楽しさをたっぷり味わえる絵本です。
- 美しく愛らしい絵本なので、子どもから大人まで幅広い世代におすすめです。
- 『ペレのあたらしいふく』『ブルーベリーもりでプッテのぼうけん』などで知られ、世界で愛されているスウェーデンのエルサ・ベスコフの作品。『おりこうなアニカ』も、ロングセラーです。
(にこっと絵本 高橋真生)