雨がしとしと降ってくると…… そう、カタツムリの季節です。カタツムリは、梅雨の時季の風物詩。
でも、殻がないだけなのに、「ナメクジの季節」とはあまり言いません。
それどころか、今回ご紹介する絵本『ガンバレ!! まけるな!! ナメクジくん』にもある通り、「ほんと、きもちわるいわッ!」なんて嫌がられてしまうことが多いようです。
でも、この絵本、実は、ナメクジへ送られたエールでもあるんです。読み終える頃には、ナメクジが少し違って見えるかもしれません。
『ガンバレ!! まけるな!! ナメクジくん』三輪一雄作・絵、偕成社、2004 amazon
さて、みなさんは、ナメクジとカタツムリの違いがわかりますか?
この絵本には、こう書いてありますよ。
カタツムリのカラをとると、ナメクジになります。
えっ、と思った方、正解です。
うそです。なりません。
悪ノリでしょうか? でも、読むとたいていみんな大笑い。「ズコー!」なんて叫んでくれる子もいます。
このユーモアのおかげで、読み手は「この絵本は、おもしろそうだぞ」と思えますし、ナメクジが、カタツムリともカラを変えられるヤドカリとも違う、ということがよくわかるのです。
そしてこんなふうに、ナメクジとカタツムリを比較しつつ、ナメクジの誕生の謎に迫っていきます。つまり、ナメクジの祖先である、海の中で暮らすまき貝まで戻って、進化の過程を見ていくのですね。
進化というと難しく感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
「陸には、たべものの草がたくさんあるなあ~」
「もっと自由にいろんなところにいきた~いッ‼」
などなど、何世代にもわたり少しずつ身体を変化させていくきっかけとなった「気持ち」が書かれているので、読み手が納得、共感できてしまうのですよね。もちろん想像ではありますが、だからこそ、とてもわかりやすいのです。
ナメクジについて、作者である三輪一雄さんはこう言います。
かれらは、けっしてあきらめることのないチャレンジャーだったのです。
自由と新天地を求めて進化し続ける「冒険野郎」ナメクジ― いかがでしょうか?
正直に言うと、私はナメクジが好きではありません。
それでも、この絵本がとても好きで、幅広い世代におすすめしているのは、ひとえにあたたかな視点で描かれた進化のおもしろさと、絵の愛らしさゆえ。
そして、三輪さんの言う通り、最後には、ナメクジのことを「ナメクジくん」と呼びたくなるほど、見直してしまいました。
元気の出る、明るい科学絵本です。梅雨になったら、ぜひ思い出してくださいね。
にこっとポイント
- ナメクジの進化をあたたかな視点で描いた科学絵本です。絵が愛らしく、文章はポジティブなので、梅雨の季節を明るくしてくれます。
- 年長さん・小学校低学年から高齢者まで、幅広い世代におすすめです。
(にこっと絵本 高橋真生)