波と女の子にとってかけがえのない夏の浜辺での一場面を、絵本の構造を最大限に活かして描いた『なみ』。文字はありません。
『なみ』スージー・リー作、講談社、2009 amazon
発売直後から世界中で話題になった、新感覚の絵本です。
こんな絵本あった!? ページをうまく活かしたページ構成
この絵本、何よりもおもしろいのが、絵本の見開きのページ構成をうまく活かした表現です。
舞台は、浜辺。絵本の境目(ノドの部分)から左のページは女の子のいる砂浜がモノクロで、右のページは波が青で描かれています。
つながって見えるような見開きの場面ですが、はじめは波がページの境目ではじかれてしまっており、女の子のいるページには入ってこられません。しかし、女の子が波のページへそっと手を伸ばして波の世界へ足を踏み入れたとき、2つの世界が繋がります。
デジタルではない、紙の絵本だからこそできる表現によって、描かれている以上の物語の奥行きを感じるさせるこの魅力。ぜひ味わってみてくださいね。
広がりと味わいのある物語
さて、波と思いきり遊んだり、時に怖れを感じたりする中で、女の子が最後に得たものはたくさんの貝殻だけではなかったのではないでしょうか。
私は、大人のいない間に、子どもたちは新しい世界に出会って、その境界を乗り越え、さまざまな経験をしていくのだな、としみじみと思わされました。
計算されたページ構成の表現に加えて、文字なし絵本であることで、描かれている以上の広がりと味わいを感じることができます。
はじける波しぶきに、かもめのゆったりとした羽ばたき、爽快感のある夏の浜辺でのひと場面にみなさんも立ち会ってみませんか。きっと新しいことに出会う楽しみに改めて気づくことができるはずです。
にこっとポイント
- 飾らない絵柄で織りなされる女の子と波のやりとりは、無音ムービーを見ているような軽快さですが、その中に、スペシャルな絵本表現が散りばめられています。絵本をじっくり読み解く楽しさを教えてくれる絵本です。
- 新しいことに出会う楽しさと小さな感動を、思い出させてくれます。
- 作者は、他にも『かげ』、『せん』を出版しています。それぞれが『なみ』同様、絵本の構造を活かした表現で、素敵な絵本です。
(にこっと絵本 Haru)