PICK UP! 空のきれいな季節に……「飛ぶ」絵本

『モチモチの木』と並んで、小学生のときに読んだという人も多い『花さき山』。真っ黒な背景の力強い切り絵は少し怖そうで、でも美しい、不思議と心惹かれる佇まいの絵本です。

花さき山
『花さき山』斎藤隆介作、滝平二郎絵、岩崎書店、1987 amazon

山菜をとりに山へ入った「あや」は、見たこともないような美しい花が一面に咲いているのを見つけます。その山に一人で住んでいるばばは、その花は、村の人間がやさしいことを一つすると一つ咲く、と言うのです。

つらいのを しんぼうして、
じぶんのことより ひとのことを おもって
なみだを いっぱい ためて しんぼうすると、
その やさしさと、けなげさが、
こうして 花になって、さきだすのだ。

今の大人にとって、『花さき山』に出てくる自分を犠牲にするがまん(しんぼう)、というのは、受け入れにくいものもあるようで、時々「子どもにはあまり読ませたくない」と言われることがあります。

確かに私も、あやや小さな男の子ががまんする姿があまりに不憫で、涙がぼとぼと出ました。

けれど、この絵本で描かれているのは、決して理不尽なことへの忍耐ではなく、誰かを思いやるあたたかさ、自分ががまんしても誰かのために行動できることの尊さ、そして自分ががんばったことが認められる幸せであるように感じます。

花さき山には、あやが妹のためにがまんしたときに咲いた花もありました。

おまえは せつなかったべ。

ばばに言われたこのことばに、あやはどれだけ気持ちが軽くなったでしょうか。


誰にでも、大切な誰かのために自分が踏ん張りたいときが、きっとあるでしょう。

ただそれが、やさしさや愛情から生まれる自発的ながまんであっても、つらいものはつらい、と思うのです。でも、やさしい人だからこそ、そう口にはできない。

そんなときに、花さき山に花が咲いたと思えることが、大きな励みになるかもしれません。

何よりも、あやが妹や家族を思う気持ちは、子どもたちの心を動かします。ジーンとしたり、切なくなったり、ドキドキしたり、自分自身と向き合ったり……。ですから、私は、やはりこの絵本は子どもたちとも読み続けていきたいと思っています。


民話の形をとったこの絵本に入り込んで、美しい花々を、ぜひご覧ください。ぱっと消えてしまう世界です。自由に旅をして、いろいろなことをお考えください。やさしさって何だろう、がまんって何だろう…… 思うことは尽きないはずです。

にこっとポイント

  • 美しい民話風の絵本です。子どもから大人まで、誰かのためにがんばりたいとき、人間関係でなんとなくモヤモヤしたときなどにもおすすめです。
  • 保育園や幼稚園での劇などにも使われることがありますが、大人が読んでもいろいろな解釈のできる絵本です。小学校低学年の子の、絵本から物語への一人読みの橋渡しにも最適です。
  • 絵本に出てくる山の話は別の『八郎』『三コ』という絵本で読むことができます。


(にこっと絵本 高橋真生)

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