PICK UP! 入園・入学&卒園・卒業に読みたい絵本

もうすぐ高校を卒業します。4月から制服がなくなって、私服になるのが不安です。進学先は華やかなファッションの人の多い大学ですが、わたしは地味な服が好きです。制服があったから、みんなと同じでいられたと思います。こんなわたしで大丈夫でしょうか?

「自由になると友達はみんな喜んでいるのに、変かもしれないけど」とお便りをくださった高校生。私も華やかなファッションは気後れするタイプ、お気持ちよーくわかります。世の中服装に悩む人は、決して少なくないと思いますので、まずはご安心を。

さてさて、今回は、パンプキン農場のクイーン・ジャスミンをご紹介したいと思います。

めうしのジャスミン

『めうしのジャスミン』ロジャー・デュボアザンさく・え、乾侑美子やく、童話館出版、1996 amazon

ある日、ジャスミンは、羽飾りのついた帽子を見つけます。いくら見ても見飽きないほど気に入りました。でも、他の動物は大笑い。

「気がへんになったの?」「自分だけ、みんなとちがっているのは いやでしょう?」

でも、ジャスミンは言いました。

「あなたは、あなたのおもうように すればいいのよ。」「だれでも、その人らしくすればいいのよ」

それでも動物たちは、ジャスミンが気になって仕方がありません。悪口の限りを尽くした挙句、好奇心には勝てずに、自分たちも帽子をかぶってみることにしました。

うれしくなって踊りまわる動物たちを見ていたジャスミン。よく考えた末、帽子をかぶるのをやめました。すると動物たちは、またしてもジャスミンをののしります。でも、結局自分たちもかぶるのをやめることにしました。そのときジャスミンは……。

大切なのは、「おもうとおりにすること」

はじめてこの絵本を読んだとき、気持ちがザワッとしたのを覚えています。威風堂々としたジャスミンが、まるであまのじゃくのように、動物たちと反対のことをするのはどうして? 帽子が好きでかぶっているなら、誰にまねをされても気にしなくてもいいのでは?

でも、ふと思ったのです。それまでも、いやにリアリティのある動物たちの悪口には辟易でしたが、

「そうだ、そうだ! ジャスミンにふりまわされるのは、もうまっぴらだ!」「ぬがせろ、ぬがせろ、ジャスミンのぼうし! ぬがせて池に、ほうりこめ!」

なんでこんなことまで言われなければいけないのだろう、と。

自分は自分。帽子をかぶってもかぶらなくても自分の勝手のはず。動物たちにつべこべ言われるうちに、ジャスミンもそう思ったのかもしれません。

大切なのは、「おもうとおりにすること」。同じでいても、いなくてもいい。大切なのは、自分で選ぶこと、自分のその選択を尊重する意志なのです。

また、これが心というものの不思議なところだと思うのですが、もしジャスミンが、みんなと違うことを気に病んだり、動物たちに隠れてこっそり帽子をかぶっていたりしたら、こんな大騒ぎにはならなかったでしょう。

ジャスミンが堂々としていて、周りとの違いに臆さなかったからこそ、「違うものを受け止める」側だった動物たちが、これほど不安になったのかもしれません。動物たちをふり回しているのはジャスミンではなく、多数でなくなるのかもしれない、自分が置いて行かれるかもしれない― そんな不安だったのかもしれません。

ねこのコットンはこう言いました。

「いつもいうように、人それぞれ、さ。そうするには、勇気がいる。ジャスミンには、その勇気があるよ」

「みんな同じ」を飛び越える、個体差というおもしろさ

さてさて今回はおまけとして、こちらの絵本『みんなおなじ でもみんなちがう』もご紹介しますね。

みんなおなじでもみんなちがう

『みんなおなじ でもみんなちがう』奥井一満著、得能通弘写真、福音館書店、2007 amazon

並んでいるのは同じ仲間のアサリやヒマワリの種。でも、よく見ると、一つとして同じものはありません。

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個体差ってすごい、自然って深い!

ぼーっと眺めていると、素に戻れるような絵本です。逆に、こんなに違うのに、おんなじ仲間なんだなという思いも湧いてきます。

ちなみに、元高校の教員として言わせてもらえば、同じ制服を着ていても、同じ人になんて全く見えないものです。何を着ていても、あなたはあなた、だと思いますよ。

だからこそ、「大丈夫でしょうか?」には、「大丈夫!」と大きくうなずけます。

今の自分でいい。変わりたいと思えば変わればいい。そして願わくば、他の人の違いをも受け止める、やわらかな心を。

ご入学、おめでとうございます。楽しい大学生活になりますように!

にこっとポイント

  • 色も動物たちの表情も、生き生きとして明るく読みやすい絵本です。『おばかさんのペチューニア』などで知られる農場が舞台のシリーズなので、気に入ったら他の絵本もぜひ読んでいただきたいと思います。
  • 人との「違い」について考えるとき、勇気がほしいとき、手にとってみてください。

(にこっと絵本 高橋真生)

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