『チョコレート屋のねこ』の舞台は、山と海に挟まれた、これといった名物もない、静かで退屈な小さな村です。
『チョコレート屋のねこ』スー・ステイントン文、アン・モーティマー絵、中川千尋訳、ほるぷ出版、2013 amazon
その村には、チョコレート屋さんがありました。そこにあるものは、どれも古ぼけていてほったらかしにされたものばかり。
店のおじいさんも、笑い方を忘れた気難しい人でしたし、店のねこも、ねずみをとらない怠け者だと、村人にばかにされていました。
ある日、おじいさんは、思いつきでチョコレートねずみを作りました。不思議なことに、ねこは、その中の一匹が動いたような気がしました。
ですから、ねこは、「ねことして」ねずみを捕まえ、ピンクのしっぽを押さえてちょっぴりかじってみました。
甘くてほろにがいチョコレートの味が、口いっぱいに広がります。なんておいしいチョコレート!
こんなにおいしいんだもの、だれかに、たべてもらわなくちゃ。
ねこは、八百屋のおじさんに、チョコレートねずみを届けます。
おじさんは、そのチョコレートをぱくりと食べ、はっとした顔でつぶやきました。「おもしろいことを考えついたぞ!」。
おじさんは、チョコレート屋さんに走っていき、2人で(チョコレート屋さんは不機嫌ながらしかたなく)、いろいろな果物をラズベリーシロップや溶かしたチョコレートに浸して、新しいお菓子を作りました。
それからねこは、パン屋さん、食料品屋さんなど村の人たちのところに、ねずみのチョコレートを運びます。
食べた人はみな笑い出すだけでなく、新しいアイディアまで浮かんでくるのでした。
チョコレートクリームをたっぷり挟んだチョコカステラに、熱々のホットチョコレート、すみれや桜草の砂糖漬けがのったチョコレート…… 村もチョコレート屋さんも次第に活気を帯びてきます。
かわいくて、おいしそう、そして心あたたまる物語
さて、当然ながら(!)、この絵本を読むと、とにかくチョコレートが食べたくなります。ことばも絵も、チョコレートの濃厚な香りが漂ってきそうなほど細やかなので、実際に絵本を手に取っていただくと、その気持ちがよーくおわかりいただけると思います
日本では都市部以外ではチョコレートの専門店は少ないでしょうから、かわいらしく華やかな外観の「チョコレート屋さん」に憧れる子もいるでしょう。それに、きっと大人でも、登場するチョコレートの数々に、ときめいてしまうはず。
また、特別なねこ好きでなくても、ねこの愛らしさには目が奪われてしまうのではないでしょうか。好奇心旺盛な目と、クルクルと変わる表情、ふっくらやわらかな丸さからは、幸せがあふれてくるようです。
その上、この絵本は、決して「かわいい」「おいしそう」なだけではありません。
ねこと特別な力を持つあまいチョコレートのおかげで、村中にやる気と笑顔が戻り、みんなが元気になっていく様子、変わっていく姿に、ほっとあたたかな気持ちになるのです。やっぱり笑うのっていいな、と素直に思えます。
文字は比較的多めなので、5・6歳のお子さんなら読み聞かせの時間をゆったり楽しんでみてください。小学校低学年のお子さんが、一人で読むのにも人気の絵本です。大人なら、バレンタインに、お疲れのときに、ぜひ、チョコレートをお供に読んでいただきたいです。
にこっとポイント
- ねことチョコレートの起こしたちょっとした奇跡を描いた物語です。
- 子どもから大人まで、幅広い年齢の方に喜ばれています。チョコレート好き・ねこ好き、お疲れの方に、特におすすめです。
- 巻末には、チョコレートの歴史について書かれた「チョコレートの話」があります。本当は、ねこにチョコレートはあげてはいけないことも、説明されています。
(にこっと絵本 高橋真生)