日曜日、ぼくのおばあちゃんとぬいぐるみのポーポが結婚する。
『ぼくのポーポがこいをした』村田沙耶香作、米増由香絵、瀧井朝世編、岩崎書店、2020 amazon
ぼくは大反対。だって、ポーポはぼくのもの、ぼくがサンタさんにもらったものだから。ふたりのママは、おばあちゃんの味方をしている。
ぼくが「きもちわるいよ」といっても、「そうだろうねえ」とおばあちゃんは笑っている。そして、こう言う。
「でもね こいは へんなんだよ。へんになるのが こいなんだから」
結婚式の日、まっくろなウエディングドレスを着たおばあちゃんの姿を見て、ぼくは何を感じたのでしょうか。
読む人に鋭く問いかけてくる、現代の寓話のような絵本です。
常識とは? 胸をはって自分や相手を愛する勇気
ぬいぐるみとおばあちゃんの恋、ふたりのママ、黒いウエディングドレス……この絵本の中には、わたしたちの中にある、固定概念や常識には当てはまらないような世界が広がっています。
繊細で美しい絵柄のページをめくっていると、現代のお伽話を読んでいるような錯覚に陥りそうになりますが、この絵本は多くを語らなくとも、わたしたちに「生き方」を鋭く問いかけてくるのです。
もし、わたしが「ぼく」だったら―。
「そうよ。おばあちゃんの こいは、おばあちゃんのものだもの。」
ふたりのママのように、受け入れることができるでしょうか。
心構えをしていたとしても、自分のこととして受け入れることをつきつけられたとき、「ぼく」のように一度は拒絶してしまうかもしれない。簡単に受け入れることができず葛藤するのかもしれない。
年齢、ジェンダー、人種、服装、伝統などに対する固定概念は、わたしたちが思っている以上に、考え方の根底や現代の社会に根強く残っているはずです。
自分を貫き通すのは、とても勇気がいることです。そして、それを受け入れる側にとっても、勇気のいることかもしれません。この絵本に触れると、胸をはって自分の思いを大切にできる人を、肯定できるような人になりたいな、と思わされます。
にこっとポイント
- ぼくのぬいぐるみとおばあちゃんが結婚する― 読む人に鋭く問いかけてくる、現代の寓話のような絵本です。
- ポーポというぬいぐるみの目線からこの物語を考えてみるのも、この絵本の醍醐味です。絵本の中では、ポーポ自身のことばは描かれませんが、裏表紙にはおばあちゃんに手を振るポーポの姿が描かれています。いろいろな柄でつぎはぎされたポーポの姿が象徴するものとは? と深く考えてみるのも大人ならではの絵本体験につながるはずです。
- 瀧井朝世さん監修の「恋の絵本」シリーズの1冊。文章を手がけたのは、『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した作家の村田沙耶香さんです。
(にこっと絵本 Haru)