春が近づいて来ると、あの木にもこの木にも枝に新しい芽がふくらんできます。花は目を向けられますが、芽はどうでしょうか? 大体木の芽の位置は高いですから、気に止められないかもしれませんね。
私は、毎年3月半ばすぎに10年くらい続けて、新潟県の妙高高原へ春を探しに出かけていました。朝は、まだ人間が歩いていない一面の雪原にうさぎやきつねの足跡が見られることがあります。運がいいと、木の根もとあたりにうさぎの糞も見られます。
昼間、すこし暖かくなった頃に雪原を歩くと、積もった雪の中から木の枝を伸ばしているその先にある新芽を、手に取って見ることができるのでした。
このような冬芽を集めた絵本が『ふゆめがっしょうだん』です。実にたくさんの顔が出てきます。
『ふゆめがっしょうだん』富成忠夫・茂木透写真、長新太文、福音館書店、1991 amazon
降雪量の多い地方では積もった雪の中から枝が飛び出していて、よく見ると新しい芽に気づきます。そして『ふゆめがっしょうだん』に出会うまでは意識をしませんでしたが、どの芽も「顔」に見えるのです。
ヒトの顔、動物の顔、宇宙人の顔⁈ 「ばんざい!」をしていたり、「春はもうすぐだよ」と語りかけてくれているみたいだったり……。
確実に春が近づいていることを実感し、同時に自然の不思議さやありがたさに感動を覚えたものです。
改めて表紙を見てみると、まさに合唱団のように木の芽たちが勢揃いしています。どんなハーモニーを聞かせてくれているのでしょうか?
「古い!」と思われるかもしれませんが、「はるよこい」(相馬御風作詞・弘田龍太郎作曲)とか「どこかで春が」(百田宗治作詞・草川信作曲)だったら、と思いました。なぜなら、冬芽の顔がどれもユニークだからです。
絵本と一緒に歌ってみると、読んでいる人も合唱団の一員になっているように感じるのではないでしょうか。
にこっとポイント
- 顔に見える冬芽を集めた写真絵本です。勢揃いした木の芽たちを見ると、勢揃い確実に春が近づいていることを実感し、同時に自然の不思議さやありがたさに感動を覚えます。
- 今ではめずらしくありませんが、初版は福音館書店・月刊かがくのともとして発行されました。月刊こどものともでは1981年に『はるにれ』(姉崎一馬 写真)があります。こちらもおすすめです。
- 昔から歌われてきた童謡にも目を向けてほしいです。
(寄稿: 絵本専門士<東京都> 鴫原晶子 / 保育者養成校講師)