PICK UP! 入園・入学&卒園・卒業に読みたい絵本

大人が好きな絵本のランキングでは、必ずと言っていいほど上位に入る『よあけ』。けれど、子育て中の方からは、「すてきな絵本だけれど、本当に子どもも喜ぶのでしょうか?」と聞かれることがあります。

『よあけ』は、真夜中から早朝にかけて変化する景色を描いたロングセラーです。

よあけ

『よあけ』ユリー・シュルヴィッツ作・画、瀬田貞二訳、福音館書店、1977 amazon

舞台は山に囲まれた湖。少しずつ夜が明けはじめ、生きものたちが動き始めると、岸辺で眠っていたおじいさんと孫も目を覚まし、朝の湖にボートをこぎ出します。

たっぷりと水分を含んだ色。刻々と変化していく景色にぴったりと合う、簡潔でおもむきのある日本語と、美しい余白。ページをめくるたびに読み手の感覚も繊細になるのか、ひんやりと湿った空気や繊細な光が、肌で感じられるようです。

絵本に掲載された作者であるユリー・シュルヴィッツの説明には、東洋の文芸や美術に造詣が深く、この絵本も唐の詩人柳宗元の「漁翁」をモチーフにしていると書かれています。

けれど、そう知らなくても、幽玄とも言えるようなどこか不思議な余韻があり、心は穏やかに満たされる― そんな絵本です。

子どもが『よあけ』を読んだとき

さて、「本当に子どもが喜ぶのか」についでです。確かに、絵本の中で『よあけ』が1番好きだというお子さんは少ないかもしれませんね。でも、だからといって、好きではないわけでも、何も感じていないわけでもないと思うのです。

たとえば、「きらめかす」「しずもる」などの、普段は使わないけれど、心惹かれることばの響き。おじいさんと孫がどこから来てどこへ行こうとしているのか、朝ごはんは何なのか、と膨らむ想像。

そして、それまでの陰影の世界から一変、太陽が昇った瞬間の、息をのむような山と湖の輝き。

大笑いするわけでも、「きれい」という感想を漏らすわけでもない。それでも子どもたちと一緒に絵本を読んでいると、『よあけ』がもたらす豊かなイメージが、それぞれの心を静かに揺らしているように感じられます。

ちなみに私の息子は、『よあけ』を読むと、小さな頃からいつもじーっとだまって絵本を見つめているだけでした。近くに置いてあると「読んで」と持ってくるけれど、自分で棚から取り出すことはない。読み終わった後も、口を開かない。

でも、6歳のある日、こう言いました。「ここほんとに静かだよね。おなか鳴っちゃったの、響いたかもしれない」― 息子はいつも一人で湖の岸辺に行っていたのだと、はっとした瞬間でした。

 

幼い人は、絵本の世界と現実を簡単に行き来できるし、年齢を重ねると、より深く絵本を楽しむことができる。そしてもちろん、どれほどの名作だって心に響かないこともある。

年齢なり、その人なりの味わい方があるのが、絵本の良さなのだと思います。

そう考えると、『よあけ』は「子どもだけのもの」でも「大人だけのもの」でもありませんよね。読みたいときには、迷わずに、どうぞ。

にこっとポイント

  • 心が穏やかに、そして明るくなる絵本です。
  • 子どもも大人も、それぞれの年齢や経験なりの読み方ができます。
  • アウトドアが好きな方や男性への贈りものにもおすすめです。絵本にあまり興味がなかった方でも、実体験に重ねて喜んで読んでくれます。

 

(にこっと絵本 高橋真生)

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