こんなお便りをいただきました。
ひとりぼっちでさびしい気分。やさしい気持ちになれる絵本はありますか?
つぶやきのような短いことばに、静けさを感じました。
静かだけれど、やさしい気持ちになれる…… できれば、美しい絵本がいいな、と思いました。
それがこちら。『ベルナルさんのぼうし』です。
『ベルナルさんのぼうし』いまいあやの文・絵、BL出版、2014 amazon
くまのベルナルさんには、友だちがいません。家族もいなくて、いつもひとりぼっちです。
でも、ベルナルさんは、平気。むしろ気楽でいいというくらい。
そんなベルナルさんのただ一つの楽しみは、お気に入りのぼうしをかぶって、長い散歩に出ることでした。
ところがある日、一羽のキツツキが、ベルナルさんの帽子に巣を作り始めます。はじめは「今すぐ 出ていってくれよ!」と嫌がっていたベルナルさんも、次第に楽しくなってきて……。
さて、この絵本には少し謎が多いようです。
鳥が増えるにつれて、ベルナルさんの帽子がどんどん高くなっていくこと。
鳥たちが、決してベルナルさん以外の人の帽子に巣を作らないこと。
人間の街(犬の散歩をしている人もいます)に、くまのベルナルさんが普通に暮らしていること。
「変なお話だね」と言った人もいます。
でも、私は思うのです。
一見普通にしている人にだって、くまみたいに冬眠したいときがある。
そして、さびしかったり、つらかったりする日が続いても、じんわりと心にしみこんでくるようなやさしい何かが、いつかきっとやってくるのだと。
この絵本の、透明感のある絵は、とても美しく、落ち着いています。
ベルナルさんの表情も、大きくは動きません。でも、だからこそ小さな変化に、繊細な心の揺れが見えるようで、キュッと胸がつかまれるような気がします。
今、あなたがもし眠るように過ごしているとしても、それは、根を生やし、枝をのばす準備をしている期間なのかもしれません。
もし、何かにトントンと心のドアをノックされる日があったら、ベルナルさんを思い出していただけたら、とてもうれしいです。
にこっとポイント
- ベルナルさんの帽子に鳥が巣を作り始めて……。ひとりぼっちもへっちゃらなくまが、誰かと会えて幸せを感じるようになるまでを描いた絵本です。
- 静かで美しい絵が魅力です。細かなところまで、ゆっくりじっくりご覧ください。
(にこっと絵本 高橋真生)