曇った窓に絵をかいて遊んでいる「わたし」。あたたかみのあるグレーの中に、ぽっかりと、わたしのかいた透明の三日月が浮かんでいます。
「なかに みえたのは おかあさん」― 近づいてくるお母さんにあわせて、わたしは、絵をどんどんどんどん大きくしていきます。
そう、お母さんがだっこしてくれるまで……。
『ふゆのゆうがた』ホルヘ・ルハン文、マンダナ・サダト絵、谷川俊太郎訳 amazon
わたしのことばは少なく、とても静かです。でも、どんどん大きくなっていく絵が、早くお母さんに会いたいとはやる気持ちを伝えてくれます。
そしてそれは、一直線にわたしのところに帰ってきたいと思う、お母さんの心でもあるのでしょうね。
この絵本は、表紙を開くとちょうど正方形になります。そこに描かれているのは、これ以上はないというくらいシンプルな形の家や車。塗られているのは、赤紫や深緑といったどこか異国風の色。画面は、慌ただしい街の様子、窓辺にぽつんと佇むわたしの姿、わたしから見える外の景色と刻々と変化していきます。
どれもみとれてしまうほど美しく、ページをめくるスピードは、自然とゆっくりになります。
『ふゆのゆうがた』を読んだある女の子は、保育園のお迎えの時間に、曇った窓にうれしそうに絵を描いていました。
きっと大人にも、待ってくれている子どもを思ったり、自分が子どもの頃を思い出したりと、それぞれの「ふゆのゆうがた」があるはず。
寒い冬の夕方の美しさとあたたかさに、心からほっとします。
雪は星に変わり、忙しく走り回っていた車も、家に向かうようです。
にこっとポイント
- 静かな絵本ですが、子どもも大人も、心の中にポッと灯りがともるようなあたたかさを感じることができます。
- 冬空の寒さ、わたしの心や家の中のあたたかさを、マンダナ・サダトの美しい絵が伝えてくれます。
■マンダナ・サダトさんHPはこちらです→ http://www.mandana.fr/
(にこっと絵本 高橋真生)