はじまりは暗い水面(みなも)。風が吹き、さざ波がたつ。「すう―」。
耳を澄ませば聞こえてくる、音の数々。「とつ とつ とつ…」「ぽちょん」。
『だって春だもん』は、冷たい雪の世界に訪れる春を追った、写真絵本です。
『だって春だもん』小寺卓矢写真・文、アリス館、2009 amazon
雪解けの水、木のふかふかした芽、厚みのある葉っぱ…… 思わず触れたくなる美しい写真と、「ぽわっ」「ちょろろろ」などオノマトペが印象的でささやきかけるような文章とが、気持ちよく五感を刺激してきます。
そして、「ぐんぐん めりり」とあふれるような生きものたちの生命力は、まだ冬の中でぼんやりしている心もしっかりつかまえて、春の世界へと連れ出してくれます。
その力強い美しさには、ああ、命ってすごいなあ、と思わずにはいられません。
今、ここは冬だけれど、どこかで春が始まっている― 私は、寒がりのくせにひんやりと静かな冬が大好きなのですが、それでも「春が来る」のがとてもうれしいのです。
どんなに ちいさな
いきものも
ほんとうは
はじめから しっている
それは、私もまた誕生や芽吹きの喜びを知っている「いきもの」だから、なのかもしれませんね。
自然と共に、自分も目覚めていくような、春を探しに外へ行きたくなるような、心をやさしく開いてくれる絵本です。冬や春先はもちろん、元気が出ないようなときにも、手に取ってみてくださいね。
にこっとポイント
- 命の美しさを感じられる、春の訪れを追った写真絵本です。春だけでなく、なんとなく元気が出ないときにもおすすめです。
- 3・4歳から高齢の方まで、幅広い世代で楽しんでいただけます。小学生の読み聞かせなどでも喜ばれます。
- 冬から春、お住まいのエリアの気候やお天気に合わせて、好きなときにお読みください。立春や啓蟄など、暦に合わせてもよいですね。
(にこっと絵本 高橋真生)