静かな静かな絵本です。
『ゆうやけにとけていく』ザ・キャビンカンパニー作、小学館、2023 amazon
大きな絵本の中の、さまざまな人の上に広がる、さまざまな夕焼け。
畳に寝ころんで本を読んだりゲームをしたり、ジャングルジムのてっぺんでばんざいをしたり、お風呂で涙をこぼしたり― この景色の中にいた自分が、ふと、思い出されます。
不思議なのは、自分が経験したことがないこと、いたことのない場所であっても、そこにいたような気がすること。
もしかしたら、小さく響く虫の声や電車の音、肌にあたる風や、部屋のあたたかさ、空気のにおいなど、自分の体験のかけらが、その景色の中に連れて行ってくれるのかもしれません。
今日は、どんな1日でしたか?
楽しかったですか? つらいことがありましたか? 空は、どんなふうでしたか?
そこここで いきる ひとびとの
きょういちにちの よろこびと かなしみが、
ひとすじの ひかりと なって、
そらに とろとろ とけていく。
気の持ちようとは言うけれど、どうがんばっても、「いい一日だった」で終われない日も、やってくる明日に気の重い日も、きっとだれにでもあると思うのです。
けれども、それは空に溶けていく。だから、今は、「ゆっくり おやすみ」。
うっすらと描かれた、お日さまの顔も優しい。疲れた夜に、疲れているあの人に、そして、穏やかな気持ちになりたい人に、そっと手渡したい絵本です。
にこっとポイント
- 疲れた夜に、疲れているあの人に、手渡したい絵本です。自然と五感が使われて、心が穏やかになります。
- 作者は、にぎやかで勢いのある絵が印象的な、ザ・キャビンカンパニーさん。この絵本では、独特の色彩や、絵から感じられる広がりや迫力、描き込みはそのままに、ふとした風景の一瞬を、静かに美しく切り取っています。
(にこっと絵本 高橋真生)