ずっと好きだった人と初めて2人で出かけることになりました。
行き先は動物園。生きものがテーマのTV番組が共通の話題だし、寒い方が動物園は空いているから。お酒が入っていたからと期待は薄くしておいたけれど、次の日、ちゃんとお誘いのLINEが来て、うれしくて、熱が出そう。
でも、それからというもの、大好きな活字は頭を通過、写真集は心が素通り。
もう少し心を落ち着かせなければ、当日まで身体が持ちそうにありません。でも、動物園に行くまでの楽しみも貪欲に味わいたいのです。どうしたらいいのでしょう……。
それならばこんな絵本かな、と必須項目を考えてみました。
- どこからでも読める。
- どこででもやめられる。
- 笑える。
- 驚ける。
- ため息も出る。
- もちろん舞台は動物園。
これらを満たしてくれるのは、旭山動物園で飼育員をされていたあべ弘士さんの『どうぶつえんガイド』。ラクダ、ゾウ、キリンなど、40種類程度の動物が紹介されています。
『どうぶつえんガイド』あべ弘士さく・え、なかのまさたかデザイン、福音館書店、1995 amazon
大人でも初めて知るような動物の生態が書かれていて、「知識の本」であることに間違いないのかもしれませんが、「知りたいから読む」というよりは「面白くてつい読んでしまう」絵本なのです。
たとえばアザラシ。ぷかぷか浮かんで寝るのですが、そのうちだんだん沈んでくるそうです。そして……「そのまま そこで ねる。10ぷんも ねる」「ときどき おきゃくさんが 『しんでるよ!』と おおさわぎする」― お客さんの大騒ぎに出くわしたことのない私は、ここで思わず「おお……」と声が出ました。『どうぶつえんガイド』の面白さは、簡単に、心と頭を持って行ってしまうのです。
また、動物を大きく描いた力強い絵と比べて、解説と一緒にちょこちょこと描き込まれた絵は、力が抜けるとぼけた雰囲気で、それぞれに魅力的。
目次は動物園マップのようだし、解説がいかにも飼育員さんらしく、この絵本が本当に、動物ガイドではなく、「動物園」ガイドなのだということが分かります。
最後に私から、問題です。この『どうぶつえんガイド』で、最後に紹介されているのは何だと思いますか? 動物たちに見られている「へんな どうぶつ」、ぜひ、動物園で見つけてみてください。
たくさんいるので、きっと、すぐに見つかりますよ。中でもうれしくて頬が緩みっぱなしになっているその個体の手には、この『どうぶつえんガイド』があるかもしれません。
(にこっと絵本 高橋真生)