節分、昔話、鬼ごっこ― 日本人には意外と身近な存在とも言える鬼ですが、そもそも鬼とは何なのでしょうか?
『鬼が出た』大西廣文、梶山俊夫ほか絵、福音館書店(たくさんのふしぎ傑作集)、1987 amazon
『鬼が出た』で面白いのは、鬼は人間の想像から生まれたものである、と断言していること。
現実にはいないけれど、人々の中に確かに存在している「鬼」が、なぜ生まれたのか、どんな鬼がいるのか、どうやって作られているのか― 大津絵や絵巻物、世界各国の鬼の写真などの膨大な資料を用いて、鬼に迫ります。
子どもの見慣れない古い絵や写真が多いのですが、「みなさんも絵の中の鬼になって、鬼の気もちを考えながら、見ていってください」と優しく誘ってもらい、すっと絵本に入り込んでしまえば、どの鬼も、笑ったり泣いたり怒ったり、驚くほど人間らしいことに気付きます。
桃太郎が豆まきをしているところ、鬼がお風呂に入る姿などは、その意外性に子どもたちも「えーっ!」と大騒ぎです。
人々の思いをのせた、怖いだけでない「鬼」
昔の日本人にとって「かくれているもの」「もの」であった鬼。怪物、病気や貧乏などの嫌なもの怖いもののほか、祖先の霊や自然の力もまた鬼と呼ばれるものでした。
この鬼たちは、ただつよくてこわい顔をしているだけでなく、このように町や村の人たちと体ごとふれ合って、大むかしからもちつづけてきた生命の息吹をそそぎかけてくれるのです。
鬼の力は、思いの力。人は、どれだけの不安と希望を「鬼」に託してきたのでしょうか。
歴史に名を残した人だけではない、膨大な人々の思いが、鬼という形で今に伝えられてきたのだと思うと、鬼という存在が全く違うものに見えてきます。
『鬼が出た』を読むと、小学校3・4年生くらいでも、強風や大雨などに鬼を見つける子が出てきます。
「あっ、鬼だね!」というささやきには、ついまわりをぐるりと見まわしてしまいます。鬼を通して、時間も空間も飛び越して、深く広く、旅のできる絵本です。
にこっとポイント
- 「鬼とは何か」を解き明かす、時間も空間も飛び越えた旅のできる絵本です。
- 古から今も続く人間の「思い」に、鬼を見る目が変わります。
(にこっと絵本 高橋真生)