ある漁村のお話です。魚がとれず、貧しさと飢えに頭を悩ませた村人たちは、昔からの掟を破って沖へ舟を出すことにしました。
『うみぼうず』(おばけ話絵本)杉山亮作、軽部武宏絵、ポプラ社、2011 amazon
何ごともなく漁を終え、浜に戻ろうとしたとき、舟に襲いかかったのは、「ひしゃくをよこせ〜」で有名な妖怪、うみぼうず。さて、どうやってピンチを切り抜けるのか。
迫力ある絵で、ぜひごらんあれ。
怪談= 怖いだけ? いえいえ、実は「知識の入り口」でもあるのです!
夏に涼をそえる、怪談。実は、怪談や昔話には、昔の人の暮らしや信仰を知るヒントがたくさん隠されています。
この絵本で描かれる「うみぼうず」もその一つ。うみぼうずは、沖へ出た舟を沈めてしまう海の妖怪です。
「本当にそんな妖怪がいたの?」「今はいないの?」と疑問に思うかもしれませんが、その「妖怪」の本質が、この絵本ではよく表現されています。
うねり、盛り上がり、山のように舟を取り囲むうみぼうずたちの恐ろしい姿には、生活の糧であるとともに、人間に牙をむく存在でもある海という自然の恐ろしさを感じます。
すると、身ひとつ小舟ひとつで海に漕ぎだす漁師たちの海への畏れが、妖怪「うみぼうず」として語り継がれてきたのだな、と思い至りませんか? 「ろうそくいわより おきに ふねを だすと、おそろしいめに あう」という昔からの掟には、理由があったのです。
このように、語り継がれてきた妖怪やおばけには、昔の人たちの畏れが反映されているのです。
昔話や怪談に触れることは、昔の人たちがどのような生活を送り、どのような信仰を持っていたのか知ることにつながります。
特にこの絵本の、淡々と語り緊迫感を高める文章には、引き込まれます。臨場感のあるむかーしむかしのお話で、妖怪の恐ろしさに、ぜひ、どっぷり浸ってみてください。また、作画の軽部武宏さんは、妖怪の絵本や怪談などの絵本を多く手がけています。雰囲気のある情景に、さらにひやっとできるはずです。
なお、お子さんと読むときは、「怖さ」だけが残ってしまわないよう、年齢や性格、タイミング、読み方など、大人が少し配慮してあげるとよいかもしれません。
にこっとポイント
- おばけ、妖怪の怪談や昔話からは、昔の人たちの生活や信仰を知ることができます。[「怖い本」と敬遠するのではなく「知識の入り口」として楽しんでみることをおすすめします。ただし、絵本の表現によって、与える年齢やタイミングには大人が配慮するとよいでしょう。
- 本作は、ポプラ社・おばけ話絵本シリーズの「弌」にあたります。『のっぺらぼう』『かっぱ』など、シリーズの他の作品もあります。
(にこっと絵本 Haru)