事実は一つだけど、見方は何通りもあって、それを知ることが、心にゆとりと広がりを与えることってありませんか?
見る人が変われば注目するポイントが変わって、いいなと思っていたところも、問題だなぁと思っていたことも、そうは見えなくなること、あると思うんです。
今回ご紹介したいのは、そういう、ものの見方が十人十色であることを考えさせてくれるお話。『1こでも100このりんご』です。
『1こでも100このりんご』井上正治作・絵、岩崎書店、1993 amazon
八百屋さんの店頭にぽつんと置いてある、赤くておいしそうな立派なりんご。お店の前を通る人たちが、そのりんごを見ていろんなことを言うのです。
仕事が忙しいサラリーマンは、子どもの頃の遠足を思い出し、あの頃はよかったなぁと想いを馳せます。
農家の人たちが通りかかったときには、おいしいりんごを作る方法について考えるし、お医者さんが通ると、りんごの栄養価と健康について思うのです。
「りんご」という一つのものがあって、それを見る人の解釈によって「りんご」がいろんな「りんご」になる。
事実は1つだけれど見方は1つではない、十人十色でいろいろあるんだということを心に置いておくと、目の前で起こる出来事に少し寛容に向き合えるような気がしたりします。
シンプルなお話だけに、胸にぐっとくるものがあります。
にこっとポイント
- ものの見方が十人十色であることを考えさせてくれるお話です。
- 果物屋さんにぽつんと置かれたりんごを主役にするために、りんご以外の背景は白黒で表現されています。その効果もあってか、りんごがまるで意志を持っているかのように見えるのが不思議です。通り過ぎる人とりんごの交流にも注目です。
(にこっと絵本 森實摩利子)