『トラのじゅうたんになりたかったトラ』ジェラルド・ローズ文・絵、ふしみみさを訳、岩波書店、2011 amazon
昔、インドのジャングルに、一頭の年老いたトラが住んでいました。めったに獲物がとれなくなり、骨と皮ばかりに痩せて、サルにもバカにされていました。
ある夜、トラは、宮殿でおいしそうにご飯を食べる王さま一家を見て、しみじみ思いました。
「いいなあ。オレもなかまにはいりたいなあ。」
そしてトラは、なんと宮殿の絨毯であるトラの毛皮と入れ替わることを思いついたのです。さて、トラの行末やいかに。
情けなくて、でもなぜか応援したくなるトラの表情に注目!
この絵本、登場シーンから、サルに木の実を投げつけられているトラの表情が私たちを惹きつけます。なんともうだつがあがらない情けなさを漂わせたその表情が、笑いを誘うとともになんだか応援したくなってしまう魅力を放っているのです。
なかでも、毛皮として引きずられていくシーンや、ブラシでごしごしと洗われているシーンは、我が家の子どもたちもいつも声をあげて笑ってしまいます。
翻訳者のふしみみさをさんも、後書きで「翻訳で迷った時は、トラのダメっぷりが目立つ方の言葉を選んだ。」とおっしゃっています。悲壮さがコミカルに描かれているのでなんとも親近感を感じてしまうトラですが、最後にはその表情にも変化が見られます。
トラの成功譚を、ぜひ皆さんも楽しんでみてください。
にこっとポイント
- 年老いたトラの成功譚です。情けないトラはコミカルで、応援したくなってしまう魅力があり、読み聞かせでも大人気。大勢への読み聞かせにもおすすめです。
- シックな色合いで、美しい絵柄です。トラの心情や立場によっての、毛の先までの描き分けが絶妙です。
- 屋外の場面で必ずトラを応援するかのように寄り添っている、ハトのカップルにも注目です。ハッピーエンドのシーンでは、トラの成功を祝福するようなハッピーな仕草も必見です。
(にこっと絵本 Haru)