ようこそ! これは、きみのための本だ。
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この本を読んでいるきみは、幸せだ。いまが1726年じゃなくてよかったね。
それはどうして?― という謎から、この絵本『ニューベリーの物語』は始まります。
『子どもの本の世界を変えた ニューベリーの物語』ミシェル・マーケル文、ナンシー・カーペンター絵、金原瑞人訳、西村書店、2020 amazon
ここはイギリス、1726年、人々がまだ白いかつらをかぶっていた頃です。この建物は、1階も2階も壁は全て本棚になっていて、たくさんの本がぎっしりつまっています。
そして、本を読んでいる人もたくさんいます。地球儀を見たり、剣で戦ったり、本の世界にどっぷりと浸っているのですが…… 読んでいるのはみんな大人! 大人の一人に立ち入り禁止を申し渡されて、大泣きしている男の子もいますね。
実は、この頃、子どもの読む本はなく、子どもは、「説教くさい詩」や「規則や決まりの本」を読まされていたのだそう。
さて、そこへ登場するのが「未来の子どもの本の王様」、ニューベリー。農家の生まれですが本が大好きで、印刷屋で働いた後、ロンドンで本を作って売り始めます。そう、その本こそが、子どものためのものだったのです!
商売上手なニューベリーがどんどんどんどん新しい本を作る姿は本当に楽しそうで、その本を夢中で読む子どもたちもとても幸せそうです。
『ニューベリーの物語』には、大きな挫折も苦労も描かれません。「伝記」と言ってイメージするお話と比べると、感情移入できる場面や大きな起承転結はないかもしれません。
けれど、喜びでいっぱいの伝記もいいもの。「好き」「楽しい」という気持ちが、物事を成し遂げる原動力になることを教えてくれます。
端々まで描かれた絵もいきいきとしていて、本を読む楽しさがあふれ出てくるよう。本好きにはたまらない絵本です。
さらに巻末には、大阪国際児童文学振興財団理事で、国際アンデルセン賞選考委員も務めた土居安子さんによる解説や、絵本に登場するニューベリーが刊行した児童書の紹介などが掲載されていて、理解がさらに深まります。
世界で最も古い児童文学賞「ニューベリー賞」
アメリカで出版された児童書の中から、一年に一度、優れた作品に贈られる「ニューベリー賞」。1922年に、米国図書館協会が創設しました。ニューベリーの本はアメリカへも輸出されましたし、ニューベリーによって「子どもの本」が広まったと考えらえているからです。
『ドリトル先生航海記』『クローディアの秘密』など、子どものころに読んだという大人の方もいらっしゃるのではないでしょうか? 翻訳児童書を探す手がかりになりますから、ぜひチェックしてみてくださいね。
にこっとポイント
- 「子どもの本の父」ジョン・ニューベリーの、明るく楽しい伝記絵本です。子どもだけでなく、本の好きな方、子どもの本に携わる仕事をされている方にもおすすめです。
- 絵本の中に出てくる子どもの本が国際子ども図書館のサイトで見られます。→ 「ヴィクトリア朝の子どもの本」 第1章 初期の児童文学
(にこっと絵本 高橋真生)