「子どもと絵を楽しめる絵本はありますか?」というご質問を時々いただきます。
子どもが小さいと美術館やギャラリーには行きにくい、一人で画集を眺める時間はとれない、子どもにも絵画に興味を持ってほしい。さらに時節柄ますます美術館には出かけにくく、「絵を見たい!」という気持ちは高まるばかり……。
そんなときにおすすめなのが、大判で見応えのある「おはなし名画」「新・おはなし名画」シリーズです。ダ・ヴィンチやピカソ、平山郁夫など、古今東西の有名な画家の生涯と作品を、お話を読みながら楽しむことができる絵本画集です。
小学生低学年くらいなら、絵にジーッと見入ったり、あれやこれやとツッコミを入れながらワイワイ読んだり、さまざまな反応を見せてくれます。
芸術家や名画は、物語やアニメなどにひょっこり登場することも多いので、気づいたときに見せてあげてもいいですね。
わが家の小学3年生は、小学生に人気のシリーズ「マジック・ツリーハウス」に出てきたダ・ヴィンチに夢中なので、おはなし名画シリーズの『レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ』を見ながら、「こんな絵を描いたんだね」などと盛り上がっています。
なお、『対訳 鳥獣戯画』『対訳 北斎の富士』はタイトルからもわかるように、英訳付き。海外の方へのプレゼントにもおすすめです。
もう少し小さいお子さんなら、「おはなし名画をよむまえに」シリーズを。語りかけるようなことばがやさしくて、声に出して読んでいると、大人の心もゆるんできます。
『マグリットのはてな?』や、谷川俊太郎さんの詩が添えられた『クレーと黄色い鳥のいる風景』もおすすめですが、今の季節なら、やはり『名画でメリー・クリスマス』ですね。
奇跡の画家・若冲が絵本になると?
さてここからは、今回ご質問をくださった方が若冲の大ファンということで、シリーズの中から『若冲のまいごの象』をご紹介します。
『若冲のまいごの象』西村和子構成・文、狩野博幸監修、博雅堂出版、2011 amazon
江戸時代の京都で活躍した伊藤若冲は、今や大人気の画家。
『若冲のまいごの象』は、象と鯨の屏風絵が行方不明になっていることから付けられたタイトルですが、表紙に使われている「白象群獣図」は、6000個ものます目を一つずつ塗りつぶして描いたものだそうです。まるでピクセルアートのようですよね。
本文にも
つねに あたらしい かきかたを もとめて えがきつづけた
と書かれていますが、その絵にさまざまな表現方法を用いる若冲には、豪華で大胆な印象がありませんか?
でも、その生涯や思いを知ることで、若冲の違う顔も見えてきます。
絵を学び始め、最も身近な生きものだった鶏を克明に観察した頃の、細やかな筆遣い。京都・錦小路の青物問屋を守り続けたお母さんが亡くなった頃の、野菜をモチーフにした涅槃図(ねはんず)の墨の濃淡。そして晩年、お寺の門前で暮らした頃の、穏やかさ。
また、若冲が絵をほとんど描いていない空白の4年間には、錦市場を守るため、江戸に出向き、幕府に顛末を訴え出ていたことなども明らかにされます。
人生と絵の重なりに、一人の芸術家が作品に込めた思いがあふれてくるようでした。
若冲ならずとも、絵本でのこんな出会いもよいものです。私も絵が好きなので、子どもと行く美術館のハードルの高さはよくわかりますが、「本物だけ」と決めてしまうと、まいごの象さんとも会えなくなってしまうということになります。
おすすめなのは、「本物も」「絵本も」両方楽しむこと! 細かいところまでじっくりゆっくり見られる絵本で名画を味わうのも、なかなかよいものですよ。
にこっとポイント
- 「おはなし名画」「新・おはなし名画」「おはなし名画をよむまえに」シリーズは、大人と子どもが一緒にアートを楽しめる絵本です。プレゼントにもおすすめです。
- 『若冲のまいごの象』では、伊藤若冲の生涯と作品を、じっくり堪能できます。
監修の狩野博幸さんは、若冲ブームの火付け役。若冲像についてのインタビューもぜひご覧ください。→ 福島民友新聞「私の中の若冲(1)気骨ある社会派」
(にこっと絵本 高橋真生)