新年度が始まりました。
思い描いていたのとは違う場所にいたり、いつも一緒にいた人と離れてしまったりして、気持ちが沈んでいる人に読んでいただきたいのが、こちらの絵本『ちいさな木』です。
『ちいさな木』角野栄子作、佐竹美保絵、偕成社、2023 amazon
あるちいさな木は、自分の好きなところに行くために家出してきた、犬のゴッチと出会います。
一緒に行きたいちいさな木ですが、ゴッチのようには動けません。けれども、ゴッチは言います。
やってみなくちゃ わかんないよ。
そしてゴッチの手助けで、ちいさな木は「イッポ イッポ」と歩けるようになります。旅するちいさな木「キッコ」の誕生です。
同じようにして、旅の仲間が加わります。岩のイワオに、沼のイッテキ。ふたりとも、「無理」「動けない」と一度は尻込みするのですが、「いきたければ、いけるわ」と言われて、試してみたら、動けるようになりました。
すっきりと晴れて風がちょうどよく吹く日も、冷たい風の日も雨の日も、みんな、前を向いて歩きます。
そしてたどり着いた「好きな場所」。キッコもイワオもイッテキも大喜びですが、ゴッチは違います。「ここは、ぼくの すきなところじゃ ないな」。ゴッチは一人で走り出し、みんなは寂しさを抱えつつも、そんなゴッチを黙って見ていました。
私は、この「みんな一緒に幸せに暮らしました」というエンディングでないところに惹かれました。
どれだけ仲の良い、大切な友人であっても、感情や道はそれぞれであること。周りもそれを尊重できること。そんな風通しのよさがありますよね。
そして、「やりたいことは、やればいい」というようなことばの数々からは、余計な力が抜ける感じがします。
やりたいことはやればいいし、やればできるものだ、と至極当たり前に言ってのけるのを見ていると、変に考え過ぎるのがばからしくなるようです(そもそも、木や沼が旅に出るというのも、なかなか豪快ですよね)。
もしかしたら、抱えている困り事のいくつかの原因は、思い込みかも……?
緊張でいっぱいのとき、行き詰まりを感じているときに、ぜひ読んでみてくださいね。ゴッチの「その後」も、お楽しみに。
にこっとポイント
- 自分は自由であり、やりたいことはやればいいし、やればできるものだ、ということに気づかせてくれる絵本です。肩の力を抜きたいときにおすすめです。
- 文章は、『魔女の宅急便』で知られる角野栄子さん。アメリカの古典絵本のようなクラシカルな絵は、ファンタジーの本の絵を多く手掛けている佐竹美保さんによるものです。シンプルながら躍動感があって、白と黒に映える緑色が印象に残ります。
(にこっと絵本 高橋真生)