『ぶたのたね』佐々木マキ作、絵本館、1989 amazon
はしるのが とても おそい おおかみがいた。どんなにおそいかというと、ぶたよりも おそい。
おおかみは、ぶたをつかまえることができず、一度も食べたことがありません。あまつさえ、逃げていくぶたにからかわれる始末です。
そこへ通りかかったきつね博士が、発明した薬をくれることになりました。
それは、なんと「ぶたのたね」。
おおかみは、さっそくたねを植えて育ててみます。そのうち、木にはたくさんのぶたが実りますが……。
お話のオチにもくすりとできる、こんなことってある!? というナンセンスの光る絵本です。
常識をひっくりかえすナンセンスにクスリ!
足の遅いおおかみに、ぶたが実る木。こんなの聞いたことがないですよね。立場の逆転した関係がなんともシニカルで、大人の笑いも誘います。
また、このお話の肝はなんといっても「ぶたのたね」です。
たくさんのぶたがすずなりにぶら下がる木なんて見たことがありますか? そのページのインパクトの強いこと。
ぶら下がったぶたたちの、めいめいの方向を向いた感情の読み取れない表情。そのシュールな絵には、思わず惹きつけられてしまうおもしろさがあります。
この絵本を大人の方に読み聞かせした際に、「この絵本は、絵なのに映像のように頭に入ってきますね」といった感想を言ってくださった方がいました。
そうなんです。ぽとんぽとんと落ちるぶた、すたこらと逃げていくぶたが、この絵本からはなぜだか容易に想像できるのです。ぶらりと木にぶら下がったぶたたちが、風に揺られる様子まで想像できてしまうほどです。
シンプルで見やすい佐々木マキさんの絵が、見え方やキャラクターたちの表情によって、それを実現しています。
シュールなユーモアを存分に体現した絵本、皆でクスリと笑いたいときにおすすめです。
にこっとポイント
- シュールなユーモアを存分に体現した、皆でクスリと笑いたいときにおすすめの絵本です。
- 童話で読むようなおおかみとは違う姿に、ついつい応援しながら読んでしまうユーモアがあります。『またぶたのたね』『またまたぶたのたね』と、シリーズで続いていくので合わせて楽しんでみてくださいね。
- きつね博士の研究室も、なんともわくわくする光景が広がっています。機械や工具好きな子におすすめの場面です。
(にこっと絵本 Haru)