絶望的な気持ちです。希望が持てるようになる絵本を教えてください。

それならば、「言葉の世界」の真ん中の「ひらがなの国」にお連れしましょう。

ぜつぼうの濁点

『ぜつぼうの濁点』原田宗典作、柚木沙弥郎絵、教育画劇、2006 amazon

「五十音がくっつき合って 意味をなしつつ 読んで字のごとく」暮らしているひらがなの国。

ある日、ひたすら平和なこの国の南部の「や」行の町で、椿事が生じました。「゛」と、濁点のみが置き去りにされていたのです。

それは、深い森に住む「ぜつぼう」に長年仕えた濁点でした。

自分みたいな「゛」がついていなければ、主は「せつぼう」という悪くないことばでいられる。主を絶望させていたのは自分なのだ。

濁点は、自分さえいなければ― と思い悩み、自分を捨てるよう、主に頼んだのでした。

やいのやいのと騒ぐ、住人たち。濁点だけでいるなんて、そんな読めもしない不手際は、あってはならないことなのです。

とはいえ、集まってきた「やぶからぼう」にも「よめ」にも「ゆすり」にも、これは他人事でしかなく、無責任に意地悪を言って去っていきます。結局、濁点は大きな「おせわ」により、「し」の沼に放り込まれてしまいました。

住人たちの顔つきには、底から冷えてくるような怖さがあります。単語に頭と手足がついている「だけ」とも言えるので、本当に見事だとしか言えないほどに、悪意や侮蔑、嘲りの気持ちが伝わってきます。

本当は、何も関係ない人たちなのに。ああ、でも、こういうこと、あるある……。

ぜつぼうの濁点_裏表紙

こちらがわれらが濁点。そう、本当に「゛」なのです。

 

でも、ご安心ください。この壮大なナンセンスの物語は、幸せに閉じていきます。それも、実にひらがなの国らしい、しっくりと落ち着く形で。「ぜつぼう」の「゛」から一歩踏み出した濁点は、新たな居場所を見つけることができたのでした。

この絵本を読んで、ニヤニヤするもよし、驚くもよし、涙するもよし。絶望の中でもきっと心が動くことでしょう。

「絶望した」ということは、きっと何かと真剣に向き合われたのだと思います。それならば、もう、それでいいのはないでしょうか。ご自分が「いいのだ」と感じられることこそが、希望へとつながっていくはずです。

にこっとポイント

  • シュールな、驚くべき設定です。読む人、読むタイミングによって、笑ったり泣いたり、さまざまな感情を呼び起こす、味わい深い絵本です。
  • 時代がかったことばのリズムが、いきいきとして気持ちいので、読み聞かせにもおすすめです。小学校高学年から、中高生、大人まで、幅広い年齢の方に。

 

(にこっと絵本 高橋真生)

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