『けんかのきもち』柴田愛子作、伊藤秀男絵、ポプラ社、2001 amazon
「ぼく」の一番の友だちは、こうた。
なのに、ぼくは、そのこうたと「すっごいけんか」をしてしまいます。
けり いれた。パンチ した。つかんだ。とびかかった。
そして、
なきながら はしって うちにかえった。
おかあさんに くっついて もっと ないた。
ないても ないても なきたいきもちが なくならない。
先生やみんなが来てくれても、こうたが謝ってくれても、けんかのきもちはまだ終わらなくって、涙が出ます。
悔しい!
つんとつり上がった目に、引き結んだ口。次から次から溢れる涙。
でも、いったい何が悔しいのか。
殴り合い・つかみ合いで負けたからなのか、仲良しのこうたとけんかしてしまったからなのか、お母さんが、泣いているぼくのそばにずっといてくれないからなのか、素直に自分から謝れないからなのか……。
どうしようもなく気持ちがおさまらなくなってしまう経験は、きっと誰にでもあるのではないかと思います。
そういうときって本当は、頭の隅でわかっているんですよね― 素直になった方が、心が楽になることを。
なのに、それがなかなかできない。
でも、なんとか気持ちが満たされて「けんかのきもちがおわる」瞬間がきたときには、前より仲良くなれるはず― そう教えてくれる、あたたかな気持ちになる絵本です。
子どもを信頼して、そっと見守る大人たち
こうた、お母さん、先生、友だち。
けんかの理由は語られていませんが、「ぼく」と彼らとの間には、信頼関係があるように見えます。
特に、先生やお母さんの対応は、実に落ち着いたものです。
けんかは、ぼくとこうたのもの。2人のけんかは対等だから、大人は口出しをせず、ただ穏やかに見守るだけ。
母親の立場からすると、なかなかできるものではないなぁ、と感心してしまいました。
実は、私も、子どもの幼稚園の先生に言っていただいたことがあります。
けんかをしていた子どもたちに対して、「対等にけんかをしていたので、見守っていました」と。
親としては、どちらが悪い、と断じられてしまうよりも、救われるものがありました。
また、結果として、思う存分思いをぶつけ合った後に、子どもたちはお互いに謝ることができたようです。
「けんかのきもち」が終わるときまで、大人もとことんつき合う。
きっかけを掴めるようにアシストしたり、そうっと見守ったり― 子どものたちへの寄り添い方を考えさせられる絵本でもあります。
にこっとポイント
- けんかをしている「ぼく」の気持ちが、臨場感たっぷりなことばと、躍動感のある絵で、読者の心に迫ってきます。
- けんかのときの気持ちってこんなだったね、と大人目線でもその行く末をじっくりと見守りたくなります。
- 大人として、子どもたちの「けんか」にどう接したらよいのか、ヒントがこの絵本にある気がします。お互いに信じ合う関係を築くことの大切さを感じさせられます。
(にこっと絵本 Haru)