『ゆきのげきじょう』荒井良二作、小学館、2022 amazon
舞台は、雪の降る小さな町。あるおうちで、男の子たちが蝶の図鑑を見ています。
きいろ あか みずいろ しろ…… きれいな ちょう
それは男の子の父さんの大事な大事な蝶の図鑑でしたが、貸してほしかった友だちとの引っ張り合いで、破れてしまいました。
男の子は、外に出て、スキーで雪を滑ります。
父さんが怒るかな。見せてあげたかっただけなのに、大切な友だちなのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
モヤモヤしているうちに落ちてしまったくぼみで、男の子は、小さくて不思議な劇場を見つけます。
かわいらしくも見える絵なのに、劇場はとても華やか。雪と氷の繊細で壮麗なイメージのせいでしょうか。雪がどんどん降ってきて、周りが見えなくなるころには、空気がどんどん張り詰めていくような迫力と美しさがあります。
また、文は独特で、余韻があります。くり返されるゆきのこたちの歌、
まわれよ まわれ ゆきのこま
などは、読み終えても耳に残っているような気がします(黙読の場合でも、です。実際に音を聞いているわけではないのに、不思議ですね)。
コマ割りのページがあったり、町を遠くから眺めたりする視点の動きが、短い映画を見ているようでもあります。
私は、冒頭でアンデルセンやヘッセ(※)が浮かんでしまったために、人間関係を深読みしすぎてやたらとハラハラしてしまいましたが、最後にはほっとして、ココアを飲みたくなりました。
読み手次第で、受ける印象がかなり変わりそうな絵本。これから、ぜひ、いろいろな人と一緒に読みたいです。
寒い寒い日に、温かい飲みものと一緒にどうぞ。
にこっとポイント
- 小さな雪の町が舞台の、不思議な劇場の物語です。
- 美しい絵が印象的ですが、耳に残るような文章も心地よく、短い映画を見ているように感じられます。
※教科書でおなじみ、『少年の日の思い出』です。模範少年エーミールと、彼の蝶の標本を盗んでしまった「ぼく」のあれやこれや…… 「懐かしい!」という方、きっといらっしゃいますよね?
(にこっと絵本 高橋真生)