『とべバッタ』田島征三作、偕成社、1988 amazon
小さな茂みの中に、バッタが隠れ住んでいました。
バッタを取り巻く世界は、とても苛酷です。
バリバリと仲間をくわえるカエル。カマキリにバラバラにされ、クモに糸でぐるぐる巻きにされ、はたまたトカゲや鳥にも― たくさんの天敵に囲まれ、命を落とす仲間たちの姿を、バッタは隠れた葉の裏からのぞいていたのでした。
厳しい自然の生存競争。ふと息をついたその瞬間に、自分も仲間たちのような姿になっているかもしれません。
怯えながら生きる生活に嫌気がさしたバッタは、決意するのです。
死にものぐるいで、相手をバラバラにするほどに、強くとぶことを。
襲いかかるヘビや、向かってくるカマキリは、本当に本当に恐ろしく荒々しく描かれています。さらに、臨場感もあります。
しかし、物語に没頭するうち、恐ろしいものたちを打ち破るほどに力強く跳躍するバッタの姿に、「こわい」ではなく、「負けるな、バッタ!」という思いが、心の奥底から湧き上がってきます。
なんと言われようとも、かっこ悪くても、生き抜くこと
この物語のキモは、バッタが一度で成功を収めるわけではない、ということ。
バッタは、力強く飛んだそのあと、一度失速するのです。
さあ、そこからどうするのか。
バッタは、笑われても、かっこ悪くても、あがいたのでした。
それはきっと、その先に、出会えるもの、見える景色があるから。
ページをめくっていると、「隠れて、逃げ続けるのか」そうバッタがわたしたちに問いかけてくるようです。
自然の中で生きようともがき、闘うバッタの姿に、勇気をもらえる絵本です。
にこっとポイント
- 苛酷な生存競争の中で、負けずに生き抜こうとするバッタから、勇気をもらえます。かっこ悪くてもいい、負けずに生き抜いて、というメッセージを受け取れる気がします。
- 荒々しくも迫力ある絵柄には、思わず手に汗を握るような臨場感があります。
- 過去にNHK「みんなのうた」でも田島征三さんの作詞で「とべバッタ」の曲が放送されていました。長く愛される本作、ぜひお子さんと楽しんでみてください。
(にこっと絵本 Haru)