しばらく前から誰かが自分の後ろにいるような気がしていたアヒルさん。ある日「だれ? どうして、わたしのあとをつけてくるの?」とたずねます。そうすると、こんな声が返ってきたのです。
「うれしい。やっときがついてくれたのね。わたし、死神なの。」
『死神さんとアヒルさん』ヴォルフ・エァルブルッフ作・絵、三浦美紀子訳、草土文化、2008 amazon
その日から、「そのとき」のためにアヒルさんが生まれてからずっとそばにいたという死神さんと、アヒルさんの奇妙な生活は始まります。
池に入ったり、一緒に眠ったり、木に登ったりする中で、二人は言葉を交わし、ときに死について語り合うのです。そして、とうとうアヒルさんに「そのとき」が訪れて……。
死神さんは、その死をどのように見つめ、見送るのか。静かな世界の中で、死について考えることのできる1冊です。
「そのとき」に寄り添ってくれる〈死〉という存在
「死神さん」という名と風貌に、はじめはどきりとする人もいるかもしれません。しかし、その穏やかな話ぶりやシックな佇まいに、すぐに親しみを覚えるはずです。
きっとアヒルさんもそうだったのでしょう。明るいアヒルさんと穏やかな死神さんのやりとりは、長年の親友のよう。
そんな死神さんだったからこそ、アヒルさんは、とまどいながらも「死」というものに向き合っていくことができたのかもしれません。
この作品の一番の魅力といっていいのは、死神さんが静かに横たわるアヒルさんに寄り添い、その姿をじっと見つめる場面です。
死神さんの表情は読み取れないけれども、そこにはアヒルさんを見つめる、慈しむような穏やかなまなざしがあるように感じられます。
そして、死神さんがアヒルさんの前に姿を現したときに持っていた赤い花が、その傍らに添えられている― この一つのページに、この絵本のすべてが込められているようです。
泣きたくなるような、でも穏やかで満ち足りた気持ちにさせてくれる、アヒルさんの旅立ちに立ち会うことは、私たちも「そのとき」について思いをはせるきっかけになるかもしれません。
にこっとポイント
- 空を仰ぐように頭を高くかかげたアヒルさんの姿が印象的な表紙です。この静かで穏やかな絵本の世界にどっぷりと浸ってみてください。
- だれにでもいつか訪れる、むしろ生まれたときからずっと一緒にいる存在、「死」ついてじっくりと考えてみたいときに、手にとってみてほしい絵本です。
(にこっと絵本 Haru)