この絵本を開いたわたしたちは、ぷっくりと膨らんだ透明インクに指を這わせながら、色を感じ、匂いを感じ、目の見えないトマスと共にさまざまなものに思いを馳せていきます。

『くろはおうさま』メネナ・コティン文、ロサナ・ファリア絵、うのかずみ訳、THOUSANDS BOOKS、2019 amazon
そして、穏やかな言葉で紡がれた文章に導かれるように、指先で物の輪郭を思い浮かべるなかで、イチゴの香り、雨粒の立ちこめた情景、ママのふんわりとした髪を触ったときの心地よさを思い浮かべることができます。

さらに、そこに付随した思い出や気持ちまで、真っ黒な世界の中の鮮やかな感覚として思い起こすことができるのです。
この絵本の大きな特徴は、真っ黒な紙と銀色の文字、光沢のある透明なインクのレリーフによるイラスト、点字によって書かれた文章が印刷されていること。

そういったものに触れながら、目の見えない人たちにとっては指先で感じる凹凸や質感だけでなく、そこで感じた匂いや思いまで含めてが「色」なのだと教えられます。
クラウドファンディングを活用して、世界の本を出版する「サウザンブックス」
この絵本を出版したサウザンブックスは、クラウドファンディングを活用して、世界の本を翻訳出版している出版社です。また、日本の本を他言語に翻訳出版することもできるそう。
絵本には、形態や加工、またテーマが理由で、量産に至らず埋もれていってしまうものが多数あります。日本での翻訳出版が進まず、わたしたちの手になかなか届かない書籍も数多くあるようです。
実は『くろはおうさま』も、大きな絵本賞も受賞している、世界で注目を集めた絵本でありながら、そんな一冊でした。
本当に求める人たちのもとに、素敵な本との出会いを作り続けている出版社ですね。
にこっとポイント
- ベネズエラ出身の作者による美しい真っ黒なデザインの絵本です。透明なインクで加工された絵柄や点字を指で感じながら、目に見えない子の世界を共に感じることができます。指先で、心で、世界や色を感じることができます。
- 紙製本版には、日本語版のみのオリジナル点字シート付録が付いています。裏表紙には、点字一覧表もあるので、点字の文章をじっくりと読んでみることもできます。
- ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞(ニューホライズン部門)2007受賞、ニューヨークタイムズ・ベスト・イラスト賞2008受賞の、世界で大注目の絵本です。
(にこっと絵本 Haru)