夜の森、木の間に細く美しい光を放つお月さまが浮かんでいて― と思いきや、光っているのはサーベルふじんです。
……サーベルふじん?
そう、サーベル頭に、白い襟にパフスリーブの愛らしいドレスの麗しい、サーベルふじん。
『サーベルふじん』網代幸介作・絵、小学館、2018 amazon
サーベルふじんは働き者です。ピザ屋のパーティーでは、熱々のピザを頭で上手に切り分けます。お肉屋さんでは肉を切り、床屋さんでは髪を切る。
みんなの喜ぶ顔が見たくて、目が回るほど働きます。グールグル、グールグルとね。
でも、ある日、働き過ぎたふじんの頭に「パキーン!!」と大きなひびが入ってしまいました。さて、サーベルふじんはどうなるのでしょうか?
サーベルふじんが、サーベルである理由
まずは「サーベルふじん」というキャラクターに意表を突かれますが、町のみんなも、動物のようだったり、頭がたくさんあったり、魔物のようだったり、人間のようだったりと、個性豊か。
でも、<こちら>と変わらない場所から始まるせいか、ヨーロッパの趣のあるおしゃれな空気のせいか、さほど違和感もなくスッと不思議な町へ入っていけます。
また、一見ひたすらナンセンスなお話のようですが、どこかしんみりしてしまうところもあるのです。
頭にひびが入ってしまい、元気をなくしてしまったサーベルふじんや、見守るしかできないみんなの悲しみ。うまく解決できそうなときに起こってしまった、まさかのトラブル。
優雅にそれを乗り越えるサーベルふじんに、「こういうこと、あるよねえ。」とある小学生が言いました。
「せっかくうまくいってたのにと思うと、よけいに悲しいよね。サーベルふじん、やさしいねえ」
この『サーベルふじん』を、変なお話と思う人もいるでしょう。ただただ楽しいと言う人も。
でもこんなふうに、サーベルふじんの優しさと強さに、心をつかまれる人もいるのです(もちろん、私もその一人)。
最初は心底驚いたけれど、軽やかでエレガントなサーベルふじんが、「のこぎり」でも「包丁」でもなく、「サーベル」であることは、必然だったのかもしれないとさえ思えてきます。
そして、どんな風に読んでも、サーベルふじんは品よく優しく笑ってくれる、そんな気がします。
にこっとポイント
- ナンセンスで豪快ですが、ほんわかあたたまる物語でもあります。幼児から大人まで、幅広く楽しめる絵本です。
- 見返し(表紙・裏表紙を開いたところ)の地図や登場人物紹介は、時間を忘れて見てしまうところ。新しい登場人物を考えるのも楽しいです。
- サーベルふじんは、ドレスをたくさんお持ちです。お好きな方はぜひ、ファッションチェック、してみてください。
(にこっと絵本 高橋真生)