大嵐の中、船が大破し、遭難してしまった親子がいました。
『しま』マルク・ヤンセン作、福音館書店、2022 amazon
海に漂いながらたどり着いたのは、島ならぬ、大きな亀の甲羅。背中に彼らを乗せた亀は、彼らに一息つく場所を与え、大きな脅威からも守り、様々な場所を巡りながら、とうとう大きな船に出会うところまで送り届けるのでした。
オランダの人気作家による文字なし絵本である本作は、親子と亀の共同生活とあたたかな心の交流を描いています。鮮やかな絵は圧巻で、海とそれを取り巻く生き物たちの生命力に溢れた色合いや、水しぶき、泡に至るまで、のびやかな美しさがあります。
どんな場面に心動かされ、どんなストーリーを読み取りますか?
『しま』の出版社である福音館書店の紹介ページには、次のようなことばが掲載されています。
『しま』は、絵を「読む」絵本です。
文字のない絵本であっても、読み手である私たち一人ひとりが、その1ページ1ページから読み取るものによって、自由に物語を膨らませることができます。
たとえば、私はこの絵本をこのように読みました。
荒々しくも雄大で生命力にあふれた自然の中で、人間はちっぽけな存在にも感じます。そして、それを慈しみ守ってくれた亀は、大きな優しさの象徴のようです。
私は、その亀の姿を追ううちに、なんともいえない安心感に包まれました。
特に、人間が背中で暮らせるくらい大きな「しま」のような亀が、もっともっと大きい相手と対峙する場面。
本当だったら、亀は海の中に潜って逃げることだってできるのです(その証拠に、人間たちと別れた後、亀は海の中へと潜っていくのですから)。
でも、亀はそうはしませんでした。彼らを守るために。目をギュッとつぶり、懸命に何かを叫ぶような亀の表情。もしかしたら、亀も怖かったのかもしれません。
私はそこに、亀の深い思いやりと強さを感じました。一生懸命に人間を守る姿に心打たれる、私の好きなページです。
また、そんな亀の勇気と優しさは親子にも伝わっていました。時折、背中の方を気遣うように見上げる亀の目線、別れの時に額を合わせて気持ちを伝える子ども。あたたかな心の通い合いに、心が癒されます。
このように、どんな場面に心動かされ、どんなストーリーを読み取るかは、読み手次第。
あなたは、この『しま』からどんな物語を「読む」でしょうか。ゆったりじっくりと、絵を「読んで」みてくださいね。
にこっとポイント
- 親子と亀の共同生活とあたたかな心の交流を美しく描いた文字なし絵本です。
- 34㎝×25㎝と大判の絵本ですから、美しい海の情景をあますところなく味わうことができます。ページのはじからはじまで、じっくりと目を向け、それぞれの物語を作ってみてください。
(にこっと絵本 Haru)