子どもたちだけではなく、親・祖父母世代にまで大人気の『おばけのてんぷら』。
『おばけのてんぷら』せなけいこ作・絵、ポプラ社、1976 amazon
食べることが大好きな「うさこ」が、「こねこくん」のお弁当に入っていた天ぷらに触発されて、自分も作って食べる、というお話です。
いいにおいに誘われて山からおばけがやってきたり、そのおばけが油で滑ってころもの中に落っこちたり、うさこが自分のメガネを天ぷらにしてしまったり、と事件もたくさん起こります。
子どもたちと読むと、ハラハラしたり笑ったりしながら、この絵本をとてもとても楽しんでくれます。
うさこがちょっと怖かったころ
私も、子どものころ、この絵本が好きでした。
なぜかって、それは、天ぷらがおいしそうだから!
もともと天ぷら好きではあったのですが、うさこがていねいに天ぷらを作る様子や、おばけまで呼んでしまういいにおい、うさことおばけの気持ちのよい食べっぷりに、「あー、おいしそうだなあ」といつもうらやましさを募らせていたものです。
ですから、何度も読みました。
が。この絵本で好きだったのは、天ぷらだけ。
なんと、うさこが苦手だったのです。
こねこくんのお弁当をのぞき込む姿、お小遣いをみんな使ってしまっても、何か変なことがあっても「まあ いいや」、メガネを天ぷらにしてしまったのに「わあ、おかしい!」で済ませてしまうこと― そんなばかな! これはだめでしょう⁉
というわけで、子どものころの私にとって『おばけのてんぷら』は、「天ぷらがすごくおいしそうな、怖いうさぎも出てくる絵本」という位置づけだったのです。
そして、うさこに憧れた日
さて、大人である今、私がうさこをどんなふうに感じているかというと…… 「かわいい」どころか、「憧れ」に近い感情を抱いているかもしれません。
当然ながら、うさこは何一つ変わっていませんから、変わったのは私。
あるとき、ふと思ったのです。
大事なお弁当をのぞき込むばかりか、味見までしてしまううさこに、こねこくんは、「いやだー」「いやだよ」とちゃんと主張しているんだな、と。
うさこの方も、こねこくんが嫌だということはしていないのですよね。ただ、マイペースなだけ。そして、おそらくですが、うさこのこの感じが、こねこくんは嫌ではないのでしょう。
長年の引っかかりがポロッと落ちた瞬間でした。
そして、年齢を重ねた分、「まあ いいや」と笑えること、流せることの大切さも知っている。
「まあ いいや」と何でも笑えるおおらかさ、いいなあ、うさこ、いいなあ、です。
『おばけのてんぷら』を読んだ私が出会ったもの
同じ絵本を、何度も読むことのおもしろさは、こういうところにあるのだと思います。
私は、この絵本を読みながら、子どものころの自分にばったり出会ったような気がします。
今よりももっと真面目で繊細、間違えることが怖かった、私。もし会えたら、がんばってるね、と言ってあげたい。そんな気持ちになったのも、うれしいことでした。
というわけで、「はまって」短期間にくり返し読むのもよいのですが、しばらく寝かせて、読み直してみるのも、本当におすすめです。
好きだった絵本はもちろん、もしモヤモヤした絵本、なんとなく気になった絵本があれば、そういったものも手に取ってみてくださいね。大発見が待っているかもしれません。
にこっとポイント
- ぬくもりのある貼り絵がかわいらしく、うさことおばけのやりとりが楽しいロングセラーです。おいしい食べものが出てくる絵本・怖くないおばけの絵本を探している方にもおすすめです。
- 子どものころに読んだ絵本を、大人になってから読むと、全く異なる印象を受けることがあるかもしれません。自分の変化や、いろいろな面に気づくきっかけになります。
- ちなみに息子は、そもそもうさこタイプなので、「はー、おもしろかった!」で終わります。誰かと一緒に読むと、感じ方の違いも楽しめますね。
(にこっと絵本 高橋真生)